ダウン

2002/09/04 アミューズピクチャーズ試写室
ニューヨークの高層ビルでエレベーターが乗客を襲い始めた……。
ブラックボックスに囲まれた現代社会の恐怖を描く。by K. Hattori

 少し前に『小さな目撃者』が日本でも公開されているオランダ出身のディック・マース監督が、自身のデビュー作『悪魔の密室』(日本未公開。ビデオ発売のみ)をリメイクしたホラーサスペンス。マンハッタンの中心部にそびえるミレニアム・ビルは、20世紀初頭に作られたニューヨークを代表する建物。ビル内にあるマタニティ教室から出産間近の妊婦たちが帰宅しようとした時、エレベーターが突然異常な動きを始める。緊張感に産気づいた妊婦たちは次々に狭い密室内で出産。幸いにして死者は出なかったが、エレベーターがなぜ異様な動きをしたのか、調査をしてもその原因がまったくわからない。調査した範囲において、エレベーターはまったくの正常なのだ。だが平常運転を始めたエレベーターで、今度は盲人が墜落する事件や、警備員がドアにはさまれて死亡する事件が起きる。これは単なる偶然ではあり得ない。

 主人公はエレベーター会社に勤務する元海兵隊員のマークという男。演じているジェームズ・マーシャルはあまり知られていない顔だが、この映画では脇役にクセのある俳優を揃えて映画に重みを出している。事件を取材する女性ジャーナリスト役に、『マルホランド・ドライブ』で注目されたナオミ・ワッツ。エレベーター会社の社長にはロン・パールマン。エレベーター会社の研究者にマイケル・アイアンサイド。一連の事件を捜査する刑事にダン・ヘダヤ。ワッツ嬢はともかく、このオジサン顔3人組の充実度はすごい。これで「殺人エレベーター」という荒唐無稽な話が、ふわふわと浮つかずに腰のすわったものになっている。この監督は『小さな目撃者』でも主人公の少女の両親役にウィリアム・ハートとジェニファー・ティリーを配役してました。突飛な設定や筋運びも、押えるところさえグッと押えておけば浮つかなくなるのです。

 この映画の肝は「危険なエレベーター」というアイデア自体にある。我々はごく当たり前のようにエレベーターを使っているが、それがどのような仕組みで動いているのかについてまったく知らない。そもそも現代社会とは「仕組みを知らずに使っている道具」であふれている。人々はパソコンがなぜ動くのか、冷蔵庫でなぜものが冷えるのか、なぜ自動車が動くのか、なぜ飛行機が飛ぶのかまったく知らないまま、それを使っていて不安も不便も不満も感じないでいられる。でも一度トラブルが起きると、それらの「仕組みを知らない機械」はユーザーにとってまったく手に負えないものになってしまうのだ。パソコンのトラブルに悩まされた人なら、こうしたことに心当たりがあるだろう。

 この映画は日常にあふれる「ブラックボックス」の潜在的な危険を描いている。ヒロインの使っているパソコンが突然ウィルスの被害を受けて止まってしまうというエピソードも、現代社会がいかなるものかを示している。

(原題:DOWN)

2002年今秋公開予定 銀座シネパトス、新宿東映会館
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|1時間56分|アメリカ、オランダ)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/down/

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