宣戦布告

2002/08/13 東映第1試写室
敦賀半島に北朝鮮の工作員が上陸。日本はこれにどう対処するか……。
同名ベストセラーを原作とする政治シミュレーション映画。by K. Hattori

 刊行直後から大いに物議を醸した麻生幾の同名ベストセラー小説を、石侍露堂監督が映画化した政治サスペンス映画だ。多くの原子力発電所が密集し、原発銀座とも呼ばれる敦賀半島沖に国籍不明の小型潜水艦が座礁する。福井県警の調べで、内部から数多くの武器と乗組員の射殺死体が発見される。状況から見て、これは北東人民共和国の特殊部隊が半島に上陸したと見て間違いない。東京では緊急閣議が開かれるが、まだ何も被害が出ていない段階で住民に避難を勧告したり自衛隊を出すことは到底出来ず、とりあえずは警察が通常捜査の延長で周囲を捜索することになる。相手は最新の火器を装備した特殊部隊と思われるのに、警察には発砲の許可さえ与えられない。やがて山狩り中の警察が山中に潜伏中の兵士に討たれて数名が死傷。もはや警察力では対処不能。悩んだ末にようやく自衛隊出動を決断した首相だったが、自衛隊を出してもその活動は法律によって厳重に制限が加えられている。有事法制が整備されていない中では、近代的な装備を持つ自衛隊もまったく身動きが取れないのだ……。

 この映画は戦争アクション映画ではなく、一種の政治シュミレーション映画だと考えた方がいい。日本に小型の火器を持ち込んだわずか十数名の特殊部隊に対し、その何十倍何百倍の人数と武器を要する日本の警察や自衛隊がバタバタと倒されていく。これは日本の警察と自衛隊が、上陸した特殊部隊に比べてことさら劣っているわけではない。装備や訓練の面で、警察も自衛隊も十分こうした事態に対処できるだけの能力を備えている。だがそれを「使うことまかりならぬ」という政治的な判断が、現場で事態に対処する警察・自衛隊の手足をがんじがらめに縛り付けてしまうのだ。

 政治サスペンスとしては、映画終盤で周辺の国々が日本に向けて軍の矛先を向けたり、国内に潜むスパイに偽情報を流して攪乱したりする部分がクライマックスになるのかもしれない。だがこうした部分は、残念ながらさほど面白くないのだ。この映画で面白いのは、圧倒的に映画の前半と中盤だろう。正当防衛以外の発砲が認められない警察。自衛権の行使としてしか人員を動かせない自衛隊。「平和を守る」ための立て前やお題目は、いざ有事になった時には何の役にも立たない。すべてが後手後手になるとわかっていて、実際に後手後手の事態を招いて被害をいたずらに拡大させていく愚かさ。発砲許可、手榴弾の使用許可、攻撃ヘリの出動許可。すべて一度許可されてしまえばあっという間にけりが付くのに、その許可を出すために何十人もの血が流されなければならないというバカバカしさ。しかもそうした許可の幾分かは、「現場指揮者の責任」という「超法規的な判断」に基づいているという危うさ。

 映画としては2流3流の作品だと思うが、日本が抱えている「危機管理の不備」を訴える点で、この映画はヘビー級の力を持っている。

2002年10月公開予定 丸の内シャンゼリゼ他・全国洋画系
配給:東映
(2001年|1時間46分|日本)

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原作:宣戦布告(麻生幾)
関連書籍:麻生幾

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