サラーム・シネマ

2002/08/06 シネカノン試写室
映画百年を記念してモフセン・マフマルバフ監督が作った作品。
オーディションに集まった人たちと監督の対話。by K. Hattori

 '95年にカンヌ映画祭の「ある視点」部門に出品され、翌年のミュンヘン国際映画祭では最優秀作品賞を受賞した、モフセン・マフマルバフ監督の代表作。今回上映されるのは映画祭など世界各国で上映された75分バージョンより長い、1時間半のディレクターズ・カット。もともとイラン国内ではこの長さで上映されたそうだが、それを映画祭に出す際、監督自身が縮めたのだという。なぜそんなことをしたのか、僕にはちょっとわからない。1時間30分でも、特に冗長なところがあるようには思えないのだけれど……。

 この映画は一種のドキュメンタリー映画と言えそうだが、製作過程でかなりの作為と演出が施されている点で、一般のドキュメンタリー映画とは少し異なっている。新作映画のためのオーディションと称して集められた人たちに対し、監督がさまざまな質問を投げかけたり、泣くことや笑うことを強いたり、死んだ真似をさせたりする。映画の中には監督やスタッフの姿も写っている。

 直前に観た『home』というドキュメンタリー映画も、映画の作り手が対象に対してさまざまな介入をしていたが、それは介入することによって何かしらの変化を期待したり、何事かの成果を期待してのものだった。だがこの『サラーム・シネマ』の介入は、ただそれだけを目的としたものなのだ。そもそもこのオーディション自体が、具体的な「映画作品」のためのオーディションというわけではなく、「オーディション自体を映画にする」というかなり奇妙で奇抜な目的で行なわれている。

 オーディションの現場で「私は女優になりたい」と訴える少女に対し、「君はこれで映画に出るんですから、もう女優でしょう」と答える監督。オーディションに合格したとしても、その人は何か別の映画で役にありつくわけではない。オーディションを記録した『サラーム・シネマ』という映画の中で、扱いが大きくなるというだけの話。あるいは「不合格者=ギャラなし」「合格者=ギャラ支給」という違いがあるのかもしれない。

 現場で神のように振る舞うマフマルバフ監督の姿と、その前に立たされるオーディション参加者たち。監督の言うことがとにかく理不尽。とにかく横暴。とにかくデタラメ。とにかくわがまま。「泣けと言われてすぐ泣けないようじゃプロの役者にはなれない。不合格!」と言い放った監督に、「スタッフの中にいるプロの役者に、この場で泣いてほしい」と反撃するオーディション参加者。それに答えてスタッフの中にいたプロの役者に「ほら泣け!」と泣くことを強いた上、いざ役者が嗚咽を漏らし始めると「泣き方に深みがない。お前も不合格だ!」と言うマフマルバフ。いや〜、愉快だなぁ。

 オーディション参加者に自分は誰に似ているかと問うと、ハリウッド・スターの名前が次々出てくるシーンも面白い。映画に国境はないということが、これほど明確になるシーンもない。

(英題:Salam Cinema)

2002年11月上旬公開 [シアター]イメージフォーラム
配給:オフィスサンマルサン 宣伝:ムヴィオラ
(1995年|1時間30分|イラン)

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