ジャンダラ

2002/07/25 GAGA試写室
呪われた子として生まれた青年が自分の父親に復讐する。
映画は前半が面白い。後半は付け足しだ。by K. Hattori

 1960年代にタイの新聞に連載された、大衆娯楽小説の完全映画化ということらしい。監督は『ナンナーク』のノンスィー・ニミブット。通俗的で古くさいドラマを今風のシャープな絵作りで現代に引き寄せてしまうのが、どうやらこの監督の持ち味らしい。この映画もストーリー自体は徹底的に通俗的だ。説明過多という欠点はあるがわかりやすい展開。魅力的な登場人物を数多く出しながら、それを惜しげもなく切り捨てていく執着心のなさ。しっかりとした時代考証にもとづいた(と思われる)美術やコスチュームの数々。きわどい性描写を交えながら、そのすぐ隣で清く正しい恋愛関係を展開させる図々しさ。要するにこの監督、ありとあらゆるものを自分の映画に取り込んでしまえる強力な胃袋の持ち主らしい。高度な美意識や作家意識は感じないが、映画作りの手並みはなかなかのものだと思わせる。

 ありがちな「父と子の葛藤」のドラマだ。主人公ジャンを生んで母親は死んだ。妻を深く愛していた父クルンワンは、それ以来ジャンを目の敵にして徹底的にいじめまくる。家に置いていても息子のようには扱わず、使用人以下の扱い。何かあれば物を投げつけ、少しでも気にくわないことがあれば激しく鞭で打つ。クルンワンは死んだ妻の親戚ワートを家に入れると、彼女に女の子を産ませて溺愛するようになる。ジャンはワートに守られながら成長し、やがて自分が父親の実の子どもではないという事実を知る。

 映画では少年時代、思春期時代、青年時代以降のジャンを3人の俳優が演じているが、映画自体は大きく前半と後半に分けられる。ジャンが父親と決定的な仲違いをし、家を出て行くところが物語の分かれ目だ。ちょうどここは、思春期時代と青年時代以降の俳優が切り替わる部分でもある。だがこの映画が面白いのは、ここまでに至る前半部分だ。ジャンが父に呼び戻されて家を継ぐことになる後半は、それまで広げに広げた物語を一気に取りまとめるようでつまらない。映画の前半でさんざんイジメ抜かれて溜まりに溜まった恨み辛みが、いよいよ爆発してフラストレーションが一気に解消されるかと思っていたのに、なんだか中途半端な結論に向けて物語が動いていくのは期待はずれだった。

 結局映画の後半で語られるのは、「親の因果が子に報い」「子は親の悪をなぞるだけ」「悪から幸せは生まれない」「復讐は身を滅ぼす」「道に外れた男女関係は不幸を生む」といった教訓話でしかない。こんな安っぽい教訓が、この映画に必要なんだろうか? さんざん父親に無軌道な人生を歩ませておきながら、その子どもである主人公がそのツケをひとりで背負わされて自滅とは情けなさ過ぎる。僕はタイの映画事情というのをよく知らないのだけれど、ひょっとするとこの映画、こうした教訓めいた結論にすることでしか、映画製作が許可されなかったのではないだろうか。どうも釈然としないなぁ。

(原題:Jan Dara)

2002年秋公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、メディアボックス
(2001年|1時間53分|タイ)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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