トータル・フィアーズ

2002/07/12 イマジカ第2試写室
ベン・アフレック主演のジャック・ライアン・シリーズ最新作。
テロリストの挑発で米ロ両国間が核戦争に突入する。by K. Hattori

 CIAの情報分析官ジャック・ライアンを主人公にした、トム・クランシー原作のポリティカル・サスペンス大作。『レッド・オクトーバーを追え!』のアレック・ボールドウィン、『パトリオット・ゲーム』と『今そこにある危機』のハリソン・フォードからライアン役を引き継いだのは、『アルマゲドン』のベン・アフレック。過去のふたりに比べると、あまりにも若く、あまりにも貫禄不足なのだが、この軽いキャラクターがむしろこの映画では効果を生みだしている。テロリストの周到な計画であっという間に米ロ二国は全面核戦争の瀬戸際に追い込まれる。ライアンが察知した事件の裏側にある陰謀に、米政府首脳陣は誰ひとりとして気づかず、ライアンの説得にも誰も耳を傾けようとしない。ライアンは首脳陣から軽んじられている。軽んじられているがゆえに、正しい意見が上層部に伝わらなくなってしまうというもどかしさ。ライアンを演じているのがチンピラめいたベン・アフレックだからこそ、この絶望的な意思疎通の困難さがリアルなものに見えてくるのだ。

 監督は『フィールド・オブ・ドリームス』のフィル・アルデン・ロビンソン。米ロ両国間の緊張関係が、世界支配を夢見る核テロリストによって一気に過熱するという筋立てはスリル満点。核テロをロシアからの奇襲攻撃だと判断したアメリカ大統領が、ホットラインを通じてロシア大統領と政治的駆け引きを繰り返すが、その間にも自体はさらに悪化して両国間の全面核戦争にまでエスカレートしていく様子は見ているだけで恐い。両国首脳は国家と国民の命を守るため、核ミサイルの発射スイッチに指をかけるのだ。この場合「国が生き残る」とは、相手国民を全滅させ、自国民の数パーセントか数十パーセントが相手の攻撃から逃れるであろうことを期待する、きわめて危険なギャンブルだ。計算上、自国が生き残る可能性はある。だがそれは満身創痍の状態でかろうじて息をつなぐことに過ぎないし、まかり間違えば互いに息の根を止めてしまうことだって十分にあり得るのだ。それがわかっていながら、それでもなお核ミサイルを発射しようとするのはなぜか。

 冷戦期の平和は「核抑止力」によって保たれてきた。米ソ両国が互いに大量の核ミサイルで武装し、「やられたらやり返す」「やればやり返される」という恐怖心で互いの行動を牽制していた。共産主義が滅び、ソ連は解体し、米ロの緊張状態もゆるんできた。だがそれでも、米ロ両国がそれぞれに核兵器を全廃しようという動きにはならない。冷戦は終っても、「核抑止力」というイデオロギーが死なない限り、この映画に描かれたような突発的緊張状態はいつでも生じうるのではないだろうか。

 米国への大規模テロの恐怖を描いている点で、この映画はまさに9・11以後の映画と言えるかもしれない。肝心のテロリストの描き方は弱いが、そんな欠点を補って余りある映画だと思う。

(原題:THE SUM OF ALL FEARS)

2002年8月10日公開予定 日比谷スカラ座他・全国東宝洋画系
配給:東宝東和 宣伝:メイジャー
(2002年|2時間4分|アメリカ)

ホームページ:http://www.totalfears.com/

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原作:恐怖の総和(トム・クランシー)
関連書:トム・クランシー
PCゲーム:トータル・フィアーズ
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