ノボケイン
局部麻酔の罠

2002/06/25 映画美学校第1試写室
スティーヴ・マーティンがタイプの違うふたりの女に翻弄される。
監督はこれがデビュー作のデヴィッド・アトキンス。by K. Hattori

 歯科医師フランク・サングスターの生活は、完璧なバランスの上に保たれていた。客筋のいい経営順調な歯科医院。優秀なスタッフたち。その中には婚約者ジーンの姿もある。美人で頭がよくて従順で、しかもセックスは激しいという男にとって理想の女。まさにパーフェクト! だがそんな彼の生活は、ひとりの女性患者の登場で足下から崩れ去っていく。その女の名はスーザン・アイヴィー。薬中の彼女はフランクに甘い言葉をかけて処方箋をごまかし、診療所に夜中に押し掛けて情事を交わし、そのすきに薬戸棚から大量の麻酔薬を盗み出していく。盗まれた薬はその夜のうちに町に出回り、フランクは麻薬取締局から麻薬密売の容疑をかけられてしまう。スーザンの名を出して釈明すれば容疑は晴れるかもしれないが、そうすれば今度はジーンに浮気がばれてしまう。フランクはとりあえず麻薬取締局の役人をごまかし、スーザンのもとに薬を取り戻しに行こうとするのだが、これがさらなる厄介ごとの始まりだった……。

 主人公フランクを演じるのはスティーヴ・マーティン。彼が歯科医を演じると『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』のサディストの医者みたいになるのではと一瞬思ったが、そこは長年のキャリアでちゃんとエリート医師に見えるのだから大したもの。助手で婚約者のジーンを演じているのはローラ・ダーン。謎の女スーザンを演じるのはヘレナ・ボナム=カーター。ふたりは共に30代半ばだが、50歳代も後半に入っているマーティンから見れば十分に若い女たちということになる。(もっともマーティンの役の上での年齢は、せいぜい50歳前後ということなのかもしれない。)

 その場しのぎの小さな嘘が原因で、さらに厄介なことに巻き込まれていくというのはよくある話。エリートの男が身持ちの悪そうなはすっぱ女に惹きつけられ、彼女の虜になってしまうというのもよくある話。すっかり信用していた人間に、一杯食わされて大ヤケドとうのも「よくある話」。この映画は「よくある話」と「よくある話」に「よくある話」を掛け合わせ、「今までにないユニークな話」を作り出そうとしている。監督・脚本のデヴィッド・アトキンスはこの難事業に取り組んで、少なくともシナリオ段階ではかなりそれに成功していると思う。場所の設定として、誰もが知っているけれど本当のところはよく知られていない「歯科医」を設定したのもよかった。清潔そのものの歯科医院と、薄汚れたモーテルの部屋でくだを巻いているジャンキーの対比がいい。

 ただし演出に関しては、少々もたつきがあると思う。ジーンという婚約者がありながらフランクがスーザンと関係を持ってしまうくだりに、もう少し演出の後押しがほしい。フランクが手に入れている世界の完璧な美しさと、スーザンが持つ魅力との間で引き裂かれていくフランクを、もう少し丁寧に描いてほしかったように思う。

(原題:NOVOCAINE)

2002年8月17日公開予定 新宿ジョイシネマ3
配給:日本ビクター株式会社
(2001年|1時間35分|アメリカ)

ホームページ:http://www.jvc-victor.co.jp/movie/

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