BALLET
アメリカン・バレエ・シアターの世界

2002/06/10 徳間ホール
ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマンの作品。
老舗バレエ団ABTの内側を取材している。by K. Hattori

 アメリカの老舗バレエ団「アメリカン・バレエ・シアター」を取材した、2時間50分のドキュメンタリー映画。監督はこの映画の翌年、フランスのコメディ・フランセーズを取材して4時間近いドキュメンタリー映画『コメディ・フランセーズ/演じられた愛』を作ったフレデリック・ワイズマン。1995年製作のこの映画が今回劇場公開されるのは、アメリカン・バレエ・シアターが3年ぶりの来日公演を行うことにあわせたもの。バレエ公演などにまったく縁のない僕も、この映画はじつに楽しく観ることができた。

 映画の前半から中盤までは、バレエ団の稽古場で連日繰り返される厳しい練習風景が繰り返し描かれる。稽古場で振付師がゼロから作り出していく新しいダンス。ダンサーたちが振付師や助手のちょっとしたアドバイスで、ダンスの内容をがらりと変えていく様子も興味深い。僕のような素人の目から見ても、たった一言のアドバイスでダンスの生み出す表情が天と地ほども違ってくるのだから驚く。映画後半はこうした稽古を経て、バレエ団が海外ツアーに出かける様子を追いかけていく。楽屋でメイクをしたり衣装を合わせるあわただしい時間。公演の合間に海に出かけたり、地元の居酒屋で大騒ぎをする団員たちの姿は、稽古場で見る真剣な表情とは打って変わってくつろいだもの。だがこうしたツアー中にも、必要最小限のトレーニングをみっちりこなしているのだからすごい。こうした膨大な練習量の上に、バレエという芸術が成り立っているのです。

 バレエ団を取材したドキュメンタリー映画としては、パリ・オペラ座バレエ団を取材した『エトワール』という映画が公開されたばかり。『エトワール』は団員たちへのインタビューが中心の映画だったが、『BALLET/アメリカン・バレエ・シアター』の世界は同じ監督の『コメディ・フランセーズ/演じられた愛』と同じく、インタビューや説明的なシーンがまったくない。素材に向かってひたすらカメラを回し、それを編集することで大きなドラマを作り出そうとしている。アプローチの方法が、最初からまったく異なっているのだ。この映画を観ていると、ドキュメンタリー映画の基本が「対象をから何を見出すか」「対象から何を切り取るか」であることが痛感させられる。あえて説明的なシーンを入れなくても、目の前で起きている事柄そのものが、物事の本質を雄弁に語ってしまうことがあるのです。

 この映画を観ながら、僕はニコラス・ハイトナー監督のバレエ映画『センターステージ』を思い出した。稽古場での振り付けやリハーサルシーンを何度も繰り返し、最後にそれらが舞台に登場するシーンを作るという構成がまったく同じなのだ。おそらくハイトナー監督は、この映画をかなり意識して『センターステージ』を作ったに違いない。トウシューズにヤスリをかけたりカッターで傷を付けたりするシーンも、ふたつの映画の共通点だ。居酒屋でのダンスシーンも面白かった。

(原題:BALLET)

2002年9月公開予定 ユーロスペース
配給:大映
(1995年|2時間50分|アメリカ)

ホームページ:http://www.daiei.tokuma.com/BALLET/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:BALLET/アメリカン・バレエ・シアターの世界
関連リンク:Frederick Wiseman
関連リンク:アメリカン・バレエ・シアター
関連リンク:American Ballet Theater

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ