ネイムレス
無名恐怖

2002/06/04 アウラスクリーニングルーム
5年前に殺された娘から母親に助けを求める電話が……。
母親が娘をさらったカルト教団に迫る。by K. Hattori

 イギリスのホラー小説家ラムゼイ・キャンベルの「無名恐怖」を、スペインの若手監督ジャウマ・バラゲロが脚色・監督したサスペンス映画。行方不明になっていた6歳の少女アンヘラが、死後数週間たった遺体として発見された。遺体には残忍な拷問の痕跡が残されていた。何らかの儀式殺人か? だが犯人は不明のまま、事件は迷宮入りしてしまう。この事件は少女の母親クラウディアの心の中で大きなしこりを残したまま、5年の歳月が流れる。ある朝、クラウディアの部屋にかかってきた1本の電話。受話器から聞こえてくるのは、「ママ、あたし生きているの。助けて!」というアンヘラの声だった。言われるままに指定された場所に行ってみると、そこには娘の履いていた靴が置いてあった。これは悪質ないたずらなのか。それとも本当に娘は生きていて、母親に助けを求めているのか。クラウディアは事件の担当刑事だったマセラに連絡を取り、娘の行方を捜し始める。そこで浮かび上がってくる「ネームレス」というカルト教団の影。教祖は刑務所にいるが、教団は今なお秘かに活動を続けているらしい。クラウディアとマセラは、教祖サンティニに会うため刑務所に行くのだが……。

 少女の誘拐殺人事件とカルト教団を結びつけるアイデアや、死んだはずの少女から母親に救出を求める電話がかかってくるという導入部など、物語が面白い方向に転がっていきそうな布石はあちこちに用意されている。だがそれが大きく雪だるま式にふくらむことなく、映画の最後までばらばらなままなのは残念。映画全体をくすんだ色づかいにしたり、特殊造形技術を使って死体をリアルに再現したりするのも、使い古された手であまり新鮮味が感じられないし、刑務所のサンティニがヒロインに曖昧なヒントを出すくだりは『羊たちの沈黙』そのままではないか。ヒトラーにも影響を与えたという秘密結社トゥーレ協会や、ナチスが収容所で行っていた人体実験など、物語の背景に得体の知れない黒い影を配置させているようだが、これも効果が上がっているとは思えない。ミステリー映画としては一応すべての事件に辻褄が合うようにできているのだが、僕には最後の最後になっても、結局犯人の目的がよくわからなかった。犯人が何をしているのかはわかる。でも何のためにそれをしているの?

 B級C級の脚本を撮影技術や特殊造形技術で、おどろおどろしい映画に仕立て上げているだけのようにも思える。ウィノナ・ライダー主演の『ロスト・ソウルズ』や、キム・ベイシンガー主演の『ブレス・ザ・チャイルド』などのオカルト映画も同じような印象だった。凝った絵作りが映画の雰囲気作りに役立つことは多いのだが、絵作りだけでは映画は成立しない。やはり一番肝心なのは、お話そのものなのだ。ヒロインをサポートする元刑事が妻子を失った話のように、複線になり切れていない消化不良のエピソードが多すぎる。最後のオチもなんだか中途半端すぎて、当初用意されていたのは別のエンディングだったのではないかと思わせるほどだ。

(原題:LOS SIN NOMBRE)

2002年7月27日上映 俳優座シネマ
配給:オンリーハーツ

(1999年|1時間42分|スペイン)

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原作:無名恐怖(ラムゼイ・キャンベル)

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