チキン・ハート

2002/05/29 映画美学校第1試写室
『生きない』の清水浩監督作。池内博之、忌野清志郎、松尾スズキ主演。
ダラダラ生きるダメ男3人組の新たなる旅立ちの行方。by K. Hattori

 '98年のデビュー作『生きない』でロカルノ国際映画祭アキュメニカル特別賞を受賞した、清水浩監督の長編第2弾。清水監督は北野武の助監督として経験を積んだ経歴の持ち主だが、デビュー作はそのつながりで脚本・主演がダンカンだった。今回もオフィス北野製作でプロデューサーが森昌行という体勢は変わらないが、脚本は清水監督自身が書いたオリジナルで、出演者にも北野映画の匂いがしない個性的な顔ぶれが揃っている。

 繁華街の公演で夜な夜な「殴られ屋」をやっている3人組の男たちが主人公だ。ボクサーになる夢に挫折し、昼間は落書き消しのアルバイトをしている岩野修27歳。一度は高校の教師という堅い仕事に就いたものの、今は寂れた商店街の寂れた帽子屋で役に立たない店員をしている丸誠二36歳。ふたりと同じおんぼろアパートに暮らしながら、何を生業にしているのかまったくわからない正体不明の男・浅田智史53歳。彼らは殴られ屋の仕事が終ると、機械修理ばかりで商売気のないオヤジが開く屋台でおでんをつつくのが日課になっている。このまま何事もなく、向上心のない日常がダラダラと過ぎていくのだろうか……。だが老朽化が激しいアパートの取り壊しが決まったことで、3人は今の生活から別の何かに変わっていく必要に迫られるようになる。

 年齢も経歴も違う3人の男たちが、それまでの一種ユートピア然とした暮らしを捨てて、新しい生活に踏み出していく様子を描くドラマ。3人は何となく暮らしている生活を捨てて、何らかの目標を持つまともな暮らしに転じるのだが、そのことを映画は「正しいこと」とも「よいこと」とも描こうとはしていない。相手を殴ることができないボクシング青年が、相手を殴れるようになるのは確かにボクサーとしては成長だろう。でもそこで彼は、自分で中に守ってきた何かを捨て去ることになる。それは帽子屋からカツラ屋に転業する男も同じこと。彼は商売が持つある種のいかがわしさを敏感に感じながらも、それに対してあえて鈍感になることでしか生きていけないのだ。成長するとは、大人になるとは、まともな生活をするとは、結局のところそれまで持っていた何かを捨てるということなのだ。でも過去を捨てて新しい生活を始めたところで、その先に何があるのか?

 池内博之、忌野清志郎、松尾スズキが主人公3人組を演じている。この中では清志郎演じるサダさんというキャラクターが出色。彼は故郷を捨て、家族を捨て、友を捨て、仕事を捨て、すべてを捨てて生きてきた。その生き方は無茶苦茶だけど格好いい。でも彼は死んでも何も残せない男なのだ。彼はそれでもいいと思っているに違いない。でも普通の人間はなかなかそこまでサッパリとすべてを捨てられないだろう。

 脇役がきらりと光る映画だ。おでんやを演じた荒木経惟が異彩を放ち、岸部一徳が禍々しいオーラを発している。女性陣ではマドンナ役の馬渕英里何より、春木みさよのサッパリした個性が清々しいと思った。

2002年8月3日公開予定 ユーロスペース他
配給:オフィス北野 宣伝:P2

(上映時間:1時間45分|日本)

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