陽はまた昇る

2002/05/17 東映第1試写室
「プロジェクトX」でも取り上げられたVHSビデオ誕生秘話を映画化。
話は面白いが演出は平板で興奮や感動は薄い。by K. Hattori

 日本ビクターのVHSビデオ開発秘話は、NHKの人気ドキュメンタリー番組「プロジェクトX」でも取り上げられ、特に人気の高かったエピソードだ。不況で勤務先の日本ビクターから余剰人員扱いされたサラリーマンたちが、技術者としての意地と誇りをかけて作り上げた家庭用ビデオ「VHS」は、先行するソニーの「β」方式でまとまりかけた家庭用ビデオの規格をひっくり返し、事実上の世界標準へと成長していく。映画を映画館で観るのではなく、家庭のテレビとビデオで楽しんでいる人たちは多いだろう。だがそうした映画の楽しみ方も、この映画に登場する男たちが存在しなかったら、まったく別の形になっていたかもしれない。

 この映画は「プロジェクトX」から生まれた映画と言われているが、正確には「プロジェクトX」もタネ本にしたであろう佐藤正明の「映像メディアの世紀/ビデオ・男たちの産業史」を原作としている。これはこれでひとつの方法だと思うけれど、どうぜなら中島みゆきの主題歌や田口トモロヲのナレーションも生かした形で、本当の意味での「プロジェクトX」の映画化を目指して欲しかった。「プロジェクトX」の魅力の多くは、あの主題歌とナレーションにあると思うからだ。その上で、現在DVD化されていない「プロジェクトX」のVHSビデオ誕生秘話とこの映画のDVDを、カップリングして売ればよかったのに……。

 出来上がった映画は確かに面白い。この話の面白さは、やはりどんな形になっても普遍的な面白さと力強さを持っているとう証明だろう。でもこれは普通に面白い話を普通に映画化しただけで、「プロジェクトX」が持つ一種あざといまでの演出で観るものを泣かせるような要素には欠けている。この映画を観る人は、普通に面白い話を普通に面白く映画化しただけで満足できるのだろうか。たぶんこの映画に観客が期待するのは「涙」だと思う。社内でお荷物のように扱われ、いじめられ、虐げられ、後ろ指を指されていた男たちが、クソ意地を通して完成させた血と汗と涙の結晶が、この世に生まれた後もさまざまな試練にさらされる。悲願の家庭用ビデオも正規発売は風前の灯火というその時、家電業界の重鎮である松下幸之助の言葉に男たちは奮い立ち、社長の英断によって男たちの苦労が報われる。重りを付けて海に放り込まれたような絶望的状況で歯を食いしばって苦しさに耐え、窒息寸前のどん底状態から一気に海面に浮上して行くような高揚感。海面に出て息を継ぐと、そこには目の前一杯に大きな青空が広がる。そのギャップの大きさが、この物語の感動になると思うんだけど……。どうもこの映画は、そのあたりの描き方に鮮やかさがない。

 主演は西田敏行。『釣りバカ日誌』のハマちゃんに、根性と努力の男を演じさせるというキャスティングも少し疑問。ビクターから松下に移った若い技術者に、ソニーの恋人がいるという設定も中途半端だった。映画全体に、もう少しメリハリがあればよかったのに。

2002年6月15日公開 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映

(上映時間:1時間50分)

ホームページ:http://www.toei.co.jp/hiwamatanoboru/

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原作:映像メディアの世紀―ビデオ・男たちの産業史
関連ビデオ:プロジェクトX 第2巻
関連書籍:プロジェクトX 挑戦者たち〈1〉
関連DVD:西田敏行

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