世界で一番醜い女

2002/05/13 サンプルビデオ
世界で一番醜い“美女”ローラ・オテロの凄惨な復讐劇。
いろいろな要素をB級テイストでまとめている映画。by K. Hattori

 1982年1月1日。スペインの病院で世界一醜い赤ちゃんが生まれた。名前はローラ・オテロ。両親や親戚からも見捨てられた彼女は幼い頃からカトリックの孤児院で育てられるが、そこでも容姿の醜さから執拗なイジメを受け、人間扱いされないありさまだった。時は移って西暦2011年の正月。マドリッドの養老院で82歳の老女が殺される。防犯カメラに写っていたのは尼僧姿の美しい女。捜査を担当するアリバス刑事は、さまざまな手がかりをもとに、元人気モデルのローラ・オテロが事件に深く関わっていることを確証するのだが……。

 ヒロインのローラを元モデルのエリア・ガレラが演じているのだが、これが映画デビュー作だという彼女の演技派硬くぎこちない。しかしその硬さやぎこちなさが、過去の自分と決別し、復讐のために次々殺人を犯すローラというキャラクターには似合っている。彼女は美しく変身した自分の肉体の中で、解放されることなく鬱屈しているのだ。誰もありのままの彼女を受け入れてくれない。彼女はこれまで1度として、本当に誰かに愛されたことがなかった。その辛さと苦しさが、彼女を連続殺人という凶行に駆り立てていくというわけだ。

 筋立てを単純化してしまえば、「整形したブス女が、世の中の美女を逆恨みしてミスコンを襲撃する」というだけの話。バカバカしいといえばそれまでだ。しかしこの映画はそこに多彩な登場人物やひねりを利かせたエピソードを配置して、バカバカしい話に豊かな肉付けをしている。もちろんどう肉付けしたところでバカバカしさは残るわけで、底の浅い話といえばそれまでの話だ。それにこの映画の難点は、「美人は性格が悪い」「ブスもやっぱり性格が悪い」と、外見にかかわらず結局はみんな性格の悪い女性しか登場しないこと。ヒロインのローラは外見でしか女性を判断しない世の中の犠牲者という見方もできるけれど、ここは彼女の内面に残る無垢さや純真さをどこかで観客に見せておかないとバランスが悪かろう。それを種にして、映画のラストにささやかな花を咲かせれば、ストーリーとして一応の決着は付けられる。バカバカしい話には、その程度のオチがふさわしい。

 ヒロインのローラにとって、偽りの美しさが牢獄に等しいという設定は面白い。これはアニメ映画『シュレック』と同じテーマだ。「私はお前を幸せにしてやった。お前は美しくなったじゃないか」と言う医者に、ローラは激怒する。美しさが人間の幸せを決めるわけじゃない。ローラの苦しみは、むしろ彼女が美しい肉体を手に入れたことによって深まったとも言える。彼女がミスコンを襲撃するのは、そこが「美しい女性=幸福な女性」という価値観を強要するイベントだからかもしれません。

 監督のミゲル・バルデムはこれがデビュー作。父が映画監督、叔母は女優、いとこは俳優のハビエル・バルデムという家系だそうです。ラブストーリー、SF、サイコサスペンス、コメディなど、いろいろな要素がふんだんに盛り込まれたパエリアのような映画です。

(原題:La Mujer mas fea del mundo)

2002年6月22日〜7月26日公開予定 俳優座シネマ
配給:オンリー・ハーツ

(上映時間:1時間49分)

ホームページ:http://www.onlyhearts.co.jp/

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