JLG/自画像

2002/05/07 映画美学校第1試写室
ジャン=リュック・ゴダールが自ら描く映像による「自画像」。
短編『フレディ・ビュアシュへの手紙』('81)を併映。by K. Hattori

 ゴダールが'95年に撮った1時間弱の作品。主演はゴダール。タイトルには“自画像”とあるが、ドキュメンタリー映画ではない。ゴダールがゴダール流の表現を駆使して描く自分自身の心象風景か、あるいは映像によるエッセイか、もしくは散文詩……。まぁそんな感じの作品なのだ。自画像とは現実そのものではない。画家の描く自画像は、左右が逆転したもうひとつの現実ではないか。この映画の中では、現実と虚構が逆転する。心の中の出来事が外にあふれ出し、外界の現実が心の中に投影される。実験的な映画と呼べばそうなのかもしれないが、いつものゴダールと言えばそれまで。ゴダールが心象風景を映像化した作品の集大成は『映画史』だと思うけれど、この『JLG/自画像』は『映画史』とほぼ同じ時期に撮影された同一コンセプトの作品と言えるかもしれない。一方は自分を通して映画を描き、一方は映画を通して自分を描こうとしている。方向が違うだけで、やっていることは驚くほど似かよっているものかもね。

 正直つまらない映画です。ゴダールが好きな人にはたまらないのかもしれないけれど、そうでない僕にとって、この映画はゴダールというひとりの老人がブツクサと独り言をつぶやくだけの映画に思える。ゴダールをアイドル視する人なら、その独り言のひとつひとつが値千金なのだろうか。熱狂的なファンにとっては、アイドルのオナラだって悪臭ではなく芳香に感じられるのだろうけれど……。何にせよ、これは僕の苦手とするゴダールです。

 ゴダールは長編・短編・フィルム作品・ビデオ作品など、膨大な数の作品を作ってきたし、今もまだ作り続けている作家です。これだけの創作意欲がまったく衰えないのはスゴイ。これはもう、我々が一般的に知っているような「映画監督」というカテゴリーとはちょっと違う人種なのです。文字通りの「映像作家」であり「映画芸術家」と呼べる人物は、まずゴダールをおいて他にいないと思う。1960年代から既に一般の商業映画から逸脱していったゴダールは、その後も一貫して自分の作りたい映画を作りたいように作り続けている。他人の評価も我関せず。でも世界の映画情勢にはちょっと興味があるというのもゴダールで、往年のハリウッド映画へのオマージュや、現代のハリウッド映画に対する対抗意識がちらりちらりと映画の中に入り込んでくる。

 自分の作りたい映画だけを作り、「わかる人にだけわかればいい!」「わからない人はわからなくて結構!」と言い切ってしまうのは、少なくとも商業映画の世界では認められないことだと思う。でもゴダールの映画は、まさに「わかる人にだけ」という映画じゃないだろうか。僕はゴダールの映画自体を少しもスゴイと思えないけれど、こういう映画を作る人が存在し、しかも作られた映画を日本に輸入して公開しようとする人たちがいるということが、そもそもスゴイことなのだと思うようになっている。DVDで『映画史』がものすごく売れたそうだから、商売としても成り立つのかもしれないけれど……。

(原題:JLG/JLG)

2002年7月公開予定 ユーロスペース
配給:フランス映画社

(上映時間:56分 『フレディ・ビュアシュへの手紙』12分)

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