にっぽん零年

2002/04/18 シネカノン試写室
1968年の日本を若手監督たちが追いかけたドキュメンタリー。
当時の若者たちはなんであんなに早口なの? by K. Hattori

 学生運動華やかなりし1968年(昭和43年)の日本の若者たちを、日活の若手監督たちが撮影して回ったドキュメンタリー映画。もともとは藤田繁矢(敏八)、河辺和夫、浦山桐郎、斎藤光正の4監督で撮影がスタートした企画だが、学生運動がほとんど「暴動」か「内乱」に近い状況にエスカレートする様子を見て会社側が映画製作の中止を決断。浦山・斎藤の2監督は途中降板したものの、藤田・河辺はゲリラ的に製作を続行して映画を完成させてしまったのだという。

 ただし会社側のあずかり知らぬところで完成したこの映画が、その後日の目を見ることはなかった。連合赤軍事件に代表されるように、その後の学生運動がさらに過激に先鋭化していくことで公開を躊躇したのか、あるいは世に出すタイミングをはかっているうちに内容が陳腐化したと判断されたのか、あるいは会社の路線転換によるものか('71年から日活はロマンポルノを製作し始める)、そのあたりはよくわからない。この映画は正式には一度も公開されることがないまま封印され、'95年の山形国際ドキュメンタリー映画祭に突然登場。『光の雨』や『突入せよ!「あさま山荘」事件』などで当時の学生運動に再び注目が集まっている今、ついに一般劇場でロードショー公開されることになったらしい。

 この映画は当時の若者たちの中でも、特に3つの部分にスポットを当てている。ひとつは学生運動のただ中で、ヘルメットをかぶり、ゲバ棒を振り回して闘争を続ける東大の学生。もうひとつは、新宿近辺を何するあてもなく徘徊するフーテンたち。さらに、世の中が反戦平和を叫ぶ中で、その対極にある軍事訓練に明け暮れる自衛官たちの生活ぶり。これらを3つのパートに分けるのではなく、同時進行で並行して描いている映画だ。学生運動やフーテンは、当時の映画の中にもたくさん出てくるけれど、彼らの中にカメラを持って飛び込み、マイクを向けてインタビューしている映像というのは新鮮だった。おそらく当時はこの手のインタビューを行うマスコミがたくさんあったはずだけれど、それは映画会社やテレビ局の倉庫の中でホコリをかぶっているのか、あるいは破棄されてしまったのか……。

 僕はここで語られている主義主張に、まったく興味はない。でも面白いと思ったのは、今から30数年前の若者たちが猛烈な早口で、独特の用語を駆使してしゃべる姿そのものにあった。大人たちのしゃべり方は、今とそう遠くないようにも思うけれど、当時の若者たちは口からマシンガンのように言葉があふれ出てくる。当時の若者たちは、大量にまき散らされた意味不明な言葉の海の中を回遊しながら、いったい何を考えていたんだろうか。ひょっとしたら、何も考えてないんじゃないの?

 広島を訪れた被爆二世の東大生が、広島で暮らす被爆者たちを前にしてしゃべる言葉の虚しさ。生活者の生活実感から生まれた言葉に対して、学生の浮ついた言葉は空回りしているばかりだもんなぁ……。

2002年6月公開 ユーロスペース(レイト)
配給:日活 宣伝:アルゴピクチャーズ

(上映時間:1時間14分)

ホームページ:http://www.nikkatsu.com/

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関連リンク:藤田敏八監督
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