実録・安藤組外伝
餓狼の掟

2002/03/13 東映第1試写室
素手ゴロの喧嘩で負け知らずだった伝説のヤクザ、花形敬の生涯。
安藤昇が自ら企画・出演している実録ヤクザ映画。by K. Hattori

 「史上最強のヤクザは誰か?」と問われた時、戦後の渋谷界隈を席巻した安藤組の幹部・花形敬の名前をあげる人は多いようだ。武器を持たない「素手(すて)ゴロ」のケンカにこだわり、向かうところ敵なし。強烈な拳で相手をたたきのめした男。組内のトラブルから銃撃された時、肩と腹に銃弾を受けながらも平気な顔をして酒を飲んでいたタフなやつ。数々の修羅場をくぐってきた眼光の鋭さには、あの力道山も逃げ出したという伝説が残っている。花形敬の型破りな人生は過去にも何度か映画化されている。ひとつは菅原文太が花形を演じた『安藤組外伝/人斬り舎弟』で、もう1本が陣内孝則主演の『疵』。今回の映画は『疵』を監督した梶間俊一監督が、現在売れっ子の哀川翔を主演に招き、再度「伝説のヤクザ・花形敬」の生涯を映画化したものだ。

 だがこの映画のウリは、哀川翔ではない。なんとこの映画には、安藤組組長であった安藤昇本人が、本人の役で出演しているのである。この映画はその全体が、安藤昇の回想談という趣向だ。画面に登場する安藤昇はただのおじいちゃんだけど、それを「本人だ」と思って観るとやはり迫力を感じるし、映画に描かれた花形のエピソードが、現実の安藤昇という人物を通して我々にも身近に感じられてくる。劇中で安藤組の事務所に飾られている鎧兜と、現代の安藤昇宅に飾られている鎧兜を同一のものにしたのも、安藤昇という人物を通して現在と過去を結びつけようとする演出に他ならない。

 主演の哀川翔は「素手ゴロ勝負で負けなし」の花形敬を演じるにしてはやや小柄な体格だと思うが、それを彼自身が持つ役者としての貫禄でカバーしている。同輩役の今井雅之も上手い役者だと思うが、そんなものを足もとにも寄せ付けない自信たっぷりの芝居。彼自身この役にかなり入れ込んでいることが、映画を観ていてもひしひしと伝わってくる。ただしこの映画は細切れのエピソードが数珠繋ぎになった構成なので、哀川翔の大芝居が観客をぐいと引きつけても、その次の瞬間には映画と観客の間にあった緊張感がしばしば途切れてしまう。これは特に、映画の後半になると顕著だ。

 終戦後の昭和20年代から高度経済成長の昭和30年代後半までを、当時の世相を織り込みながら映画化しようとする作品の意図はわかるが、時代風俗を再現するにはいささか「ご予算」や「準備期間」が足りなかったのは気の毒。張り紙、看板、自動車などの大道具や小道具を駆使し、時代の色を映画にちりばめようとする努力は認められる。だが昭和30年前後のはずなのに、盛り場の裏路地にエアコンの室外機がずらりと並んでいたりすると、やっぱり観ている方は興醒めしてしまうのだ。これを見て見ぬふりするのが正しいのかもしれないけれど、もう少し予算があれば、同じような裏路地を使っても美術スタッフがそれなりにがんばれただろうにと思うのだ。あといつも気になるのは、登場人物の髪型。服装は借り物で時代色が出せても、髪は自前だからいじれない。

2002年4月13日公開 新宿東映パラス2
東映東京撮影所作品 協力:アースライズ

(上映時間:1時間30分)

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