エンジェル・スノー

2002/03/05 メディアボックス試写室
結婚6年目にようやく妊娠した子供が難病だと宣告された若い夫婦。
ドラマはよくできている。泣かせる。でもラストが不可解。by K. Hattori

 「生命倫理」と言うと少々話が大げさになるけれど、生殖医療の分野というのは年々技術が発達していて、ほんの数年前には不可能だったことが今は技術的に可能になっているようなことも多いようです。最終的にそうした技術の前に立ちふさがるのは、技術の壁よりむしろ、倫理的な事柄や法整備の問題なのかもしれません。排卵誘発剤を使って妊娠した多胎児を間引く(減数手術をする)ことは、はたして倫理的に許されるのか。精子バンクや卵子バンクを使って生まれた遺伝的な血縁関係のない子供を、法的にどう考えるべきなのか。あるいは代理母の問題をどう考えるべきなのか……。かつて子供は天からの授かりもので、「避妊」という形で産児制限をすることはできても、積極的に「子供を作る」ことは難しかった。でも今は技術的に何でもできる。子供は授かるものから、計画的に作るものになってしまった。クローン人間の是非は議論になるところでしょうが、「子供を人工的に作る」という意味では、現在の生殖医療の発達も似たようなものです。少なくとも30年前と今とでは、「子供を産む」ことの意味が変わっていると思う。

 不妊治療が技術的に発達することは、不妊に悩む夫婦にとっては福音です。でもこれは、別の不幸を生みだしてもいる。かつては子供ができなくてもしかたがないと早い時点であきらめをつけ、夫婦ふたりの生活の中で別の幸福を見つけることができたはずなのに、今はなまじ技術が発達しているからいつまでもあきらめがつかず、ずるずると不妊治療にかかりきりになる人たちも多いと言われています。生活すべてが「妊娠」を目的としたものに変わり、かえって夫婦仲がギクシャクするケースもあるらしい。不妊治療は肉体的にも精神的にも、そして経済的にも大きな負担を強いられます。それにどんなに技術が発達しても、それでも妊娠できない人たちというのはいるわけで、その場合は「なぜわたしたちだけがダメなのか」という疎外感に苦しめられる。どこかで諦めればいいのに、技術がどんどん発達するから諦めきれないのです。鼻先にニンジンをぶら下げられた馬のように、いつまでも走り続けるのは結構きついと思う。

 この映画は不妊で悩む若い夫婦が体外受精で妊娠するが、千載一遇のチャンスで身ごもった子供が難しい病気にかかっており、医者から「生まれたその日に死んでしまうだろう」と宣告される話です。夫婦は中絶を勧められますが、それでも「子供が欲しい」という願いから赤ん坊を生むことを決意する。正直こんなのは親のエゴであり自己満足に過ぎないと思うけれど、この映画は若い夫婦の切実な気持ちに焦点を当てて、「エゴだ」という第三者の批判を寄せ付けません。泣かせどころ満載。僕は途中で何度か涙が出た。特にヒロインの育ての親である叔母のエピソードが泣かせる。いい映画です。

 ただし、ラストシーンに釈然としない。どうにも不可解。どうにも意味不明。このあたりについては、他の人の意見を聞いてみたい気もする。

(英題:a day)

2002年初夏公開予定 新宿武蔵野館
配給:パンドラ 宣伝:スキップ

(上映時間:1時間52分)

ホームページ:http://www.pan-dora.co.jp/

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