2002/02/21 メディアボックス試写室
イギリスのパブリックスクールから姿を消した4人の生徒たち。
ソーラ・バーチが愛の残酷さを演じきる心理劇。by K. Hattori

 イギリスの名門パブリック・スクールから、ある日突然4人の生徒が姿を消す。それから18日後、休暇で人気のない学校に、行方不明だった生徒のひとりがボロボロの姿で戻ってくる。この知らせにイギリス中が騒然となり、ニュースは連日のように事件の謎について報道し始める。たったひとり帰ってきた女生徒リズ。いったい彼女は何を見たのか。残る3人の身に何が起きたのか。女性カウンセラーのフィリッパは、リズから事情を聞くために病室を訪れる。生死の境から生還したばかりの怯えきったリズが語る、事件の真相とは……。

 ひとつの事件を元に複数の矛盾する証言が錯綜し、最後に真相が提示されるという『羅生門』型のミステリー映画。原作はガイ・バートの小説だが、映画ではそれをかなり自由に脚色しているという。主人公リズを演じるのは『アメリカン・ビューティー』『ゴースト・ワールド』のソーラ・バーチ。カウンセラーのフィリッパを演じるのは、『アンドリューNDR114』『ブリジット・ジョーンズの日記』のエンベス・ダビッツ。リズの周辺にいる生徒を演じるのは、ほとんどが無名の役者ばかり。監督は『マーサ・ミーツ・ボーイズ』のニック・ハム。

 10代のころ誰もが1度くらいは、「世界が消滅して愛する人とふたりきりになったらどんなに幸せだろうか」と夢想したことがあると思う。世界が消滅しても、原始時代のような生活になったのでは意味がない。現代の便利な生活をそっくりそのまま保持したまま、世界から人がすっかり消えて、自分と恋人が新しい世界のアダムとイブになれたら素敵かもしれない……。もちろんこんなものは、10代のガキンチョだけが夢見る馬鹿げた妄想だ。この妄想が馬鹿げている理由は、何らかの外的な事情で「愛する人とふたりきり」になることが強制されるということ自体が、そもそも地獄に他ならないからだ。恋愛や結婚が尊いのは、そこに「自由選択」の余地があるからだろう。大勢の相手の中から特定のパートナーを選び出すのは、当人たちの自発的な選択に任されている。付き合うのも別れるのも、当人たちの自由選択。だからこそ、その選択には重みがある。「世界に愛する人とふたりきり」になってしまったら、そこに選択の自由はない。自主的な選択のないところで育まれる愛に、どれほどの真実があるというのだろうか。

 あまりあれこれ書くとミステリーのねたを明かすことになるのだが、僕はこの映画の中から「幼い愛の傲慢さと残酷さ」を感じた。愛は尊く美しいものだというのは幻想だ。愛は人を盲目にし、愛は人をとてつもなく愚かな行動に駆り立てる。愛によって人は大切な人間関係を破壊し、あらゆる残酷な行為も見過ごされてしまう。愛が人を悪魔に変え、愛が地獄を生み出す。そんな愛の恐ろしさが、この映画には描かれている。リズは自分の愛の結果を抱きしめながら、これから先の人生を生きていく。彼女はそれに満足しているだろう。だがこれも愛なのだ。

(原題:The Hole)

2002年GW公開 恵比寿ガーデンシネマ
配給:コムストック

(上映時間:1時間42分)

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サントラCD:穴
原作:穴(ガイ・バート)
原作:体験のあと
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