ブラックホーク・ダウン

2002/02/15 よみうりホール
1993年のソマリアでドツボにはまったアメリカ軍の悲壮な戦い。
リドリー・スコットが圧倒的な迫力で描く戦争。by K. Hattori

 1993年、紛争中のソマリアで米軍精鋭部隊が巻き込まれた大規模な市街戦の実話を映画化した、リドリー・スコット監督の戦争アクション大作。製作はあの『パール・ハーバー』で世界中の心ある映画ファンから大顰蹙を買ったジェリー・ブラッカイマーだが、今回はわかりやすい「政治解説」を極力排除して、何も考える余地のない戦場の現実をリアルに再現することのみにこだわっている。ソマリアでの国連活動については、日本が蚊帳の外だったこともあってあまり知られていないように思う。僕もまったくこの件については知らなかったし興味がなかったのだけれど、調べてみるとこれがかなり悲惨な話。国連安保理の要請を受けて歴史上初の「平和執行部隊」としてソマリアに派遣されたアメリカ軍が、泥沼の混乱の中で身動き取れなくなってしまう話だ。史上初の国連平和執行部隊は、初登場のソマリアでいきなり挫折してしまった。ソマリアは今も混乱の中にある。

 しかしこの映画には、そうした複雑怪奇な政治は描かれていない。物語は事件の起きる10月3日と、事件が一応の収拾をみる翌4日に限定されている。またこの映画には、登場人物の内的な葛藤も描かれない。兵士たちは自分たちもよくわからないうちに危険な戦場に投入され、降りそそぐ銃弾と飛び交うロケット弾をかいくぐる羽目になる。目的はただひとつ。ただ生き残ることのみ。自分と負傷した戦友たちと仲間の遺体を、安全なところまで運ぶことだけだ。四方を敵に囲まれたまま孤立した兵士たちは、自分たちの視野が届く半径数十メートルの世界しか認識することができない。映画には数十人の登場人物が次々登場するが、映画が半ばに達した時点で、既に誰が誰だなのか、いつどこで誰が何をしているのかまったくわからない混乱状態になってしまう。しかしこれは物語をまとめることに失敗したわけではなく、映画を観ている観客すらも、兵士たちが体験したのと同じ混乱や混沌の中に引き込もうとする演出のようにも思える。

 スピルバーグの『プライベート・ライアン』はリアルな戦闘シーンの演出で、それまでの戦争映画の概念を変える画期的な作品だった。『ブラックホーク・ダウン』はその正統な後継者と言えるだろう。過酷な戦場をドキュメンタリータッチで映像化する圧倒的なリアリズムと迫力は、『プライベート・ライアン』のノルマンディー上陸戦の迫力を、延々2時間に引き延ばしたようなもの。土と血と硝煙の入り交じった匂いが、画面全体に充満している。銃弾がコンクリートに跳ねる金属音が耳の奥に響き、砲弾の炸裂音が身体全体を揺さぶる。この映画は最新設備のシネコンなど、できるだけ音響設備のいい劇場で観る方がいいと思う。

 それにしても、リドリー・スコットはつくづくメロドラマの作家だと思う。「特殊な極限状態に放り込まれた人間」を、これほど巧みに描ける人はそうそういない。まったく感心してしまう。観ていて数ヵ所で、胸にグッと迫る場面があり、思わず涙ぐみかけました。

(原題:BLACK HAWK DOWN)

2002年3月30日公開 日劇1他・全国東宝洋画系
配給:東宝東和

(上映時間:2時間25分)

ホームページ:http://bhd.eigafan.com/

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サントラCD:ブラックホーク・ダウン
原作単行本:強襲部隊(マーク・ボウデン)
原作文庫:ブラックホーク・ダウン〈上・下〉
参考:リドリー・スコット関係

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