愛の世紀

2002/02/14 東宝試写室
ゴダール監督の最新作。モノクロームの画面がひたすら美しい。
でも内容は僕にはチンプンカンプンでした。by K. Hattori

 伝説の映画監督ジャン=リュック・ゴダールの最新作。日本で劇場公開される作品としては昨年の『映画史』(完成は'98年)以来だが、劇映画ということになると『ゴダールの決別』('93年製作)以来の作品になるらしい。ゴダール本人はきわめて多作の監督だが、最近はビデオ撮影の短篇映画のようなものも多く、なかなか劇場で作品が上映される環境が整わなかった。『愛の世紀』はゴダールの新作を待ち望んでいたファンにとって、まさに待ちに待った念願の新作公開ということになる。

 ゴダールは映画という表現を使ってきわめて普遍的なテーマを描く作家だと思うが、その表現手法がきわめて個性的かつ個人的なものなので、ゴダール作品を初期からずっと追いかけている一部の熱狂的なファンや研究者以外には、なかなか理解しづらいところがあるのではないだろうか。「難解」というのとは、ちょっと違うと思う。難しいことを語っているわけではないのだろうが、表現が個性的すぎるのだろう。僕は熱狂的なファンでも研究者でもないので、ゴダールの映画はチンプンカンプンでよくわからない。このチンプンカンプン具合は、骨董品の壺を見せられた時や、逆に現代アート作品を見せられた時に感じる気分に似ている。確かに悪いものじゃない。見ていて「なるほどなぁ」「素敵だなぁ」ぐらいの感想は持つ。でもそれを値踏みすることが僕にはできない。値段を聞かされてビックリ仰天してしまう。ゴダールの映画も、僕にとっては同じだ。確かに面白いとは思う。素敵な映画かもしれない。でもそれにどんな値打ちがあるのか、僕にはさっぱりわからない。

 この映画は1時間半ちょっとの作品だが、前半1時間ほど続くモノクロスタンダード画面の美しさは圧倒的。黒の締まったいい絵になっている。フィルムや現像の問題で、最近は黒の締まらないモノクロ映画が多いのだ。スタンダード画面というのもいい。まるで一流写真家の撮ったスチル写真のような充実感が、この映画の画面の中にはある。逆に映画後半では、画面の色を人工的に強調してまた別の世界を作っている。ただし僕は、このカラー画面にはあまり魅力を感じなかったけれど……。

 一流の芸術家というのは、頭で考えてモノを作らない。ゴダールはかなり理屈っぽく映画作りをするタイプかもしれないが、理屈だけで映画が作れるなら映画監督という職業など不要になってしまう。ゴダールに心酔し、彼の後を追おうとした者たちがことごとく挫折する中で、ゴダールだけが今も孤高の地位を保っていられるのは、彼が映画を理屈では作っていないからだろう。それが映画作家の才能というものだと思う。だがゴダールは世界の映画情勢に無縁で映画を作る、仙人のような作家ではない。彼はこの映画の中で、アメリカ文化やハリウッド映画に痛烈な批判の矛先を向ける。ゴダールもスピルバーグの映画が気になるのです。でも彼は自分のやり方でしか映画が作れない。スタイルは変えられない。それが芸術家の芸術家たるゆえんでしょう。

(原題:ELOGE DE L'AMOUR)

2002年GW公開 シャンテシネ
配給:プレノンアッシュ 宣伝・問い合せ:楽舎

(上映時間:1時間38分)

ホームページ:http://www.prenomh.com/

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