able
エイブル

2002/02/07 映画美学校第1試写室
アリゾナにホームステイした知的障害を持つ日本人少年ふたり。
映画を観ていると、誰もが彼らを好きになる。by K. Hattori

 知的障害を持つ17歳と19歳の日本人少年ふたりが、アメリカ・アリゾナ州の家庭で数ヶ月間のホームステイをする。ふたりの少年は知的障害がある上に、英語もまったくできない。そんななかで何とか意思の疎通をはかり、人間同士の交流が生まれてくる。ふたりはホストファミリーのもとから地元の学校に通い、職業訓練を受け、実際に職場に出かけ、家族と休暇を過ごす。大きな事件はないけれど、少しずつ深まっていく人間同士の絆がある。最初は互いにおっかなびっくりだった関係も次第にほぐれ、笑いあり涙ありの数ヶ月間が瞬く間に過ぎていく。この映画はそんな日米交流を、ホームステイを受け入れたホストファミリーの側から描いたドキュメンタリー映画。監督は小栗謙一。2001年度の毎日映画コンクールで、記録文化映画賞を受賞した作品だ。

 この映画のユニークさは、知的障害を持つ日本の少年たちを、健常者であるアメリカ人夫妻、特に妻キャサリンの視点から描いているところにある。もともとは「アメリカで開催されるスペシャルオリンピックスに出場する日本人少年ふたりのドキュメンタリー映画」という発想から生まれた作品のはずだが、それを「アメリカに行く日本人少年」の視点から描かず、視点を180度ひっくり返して「日本人少年を受け入れるアメリカ人夫妻の話」にしたのはすごいアイデアだと思う。映画はキャサリンのナレーションで進行していくが、知的障害を持つふたりのホストファミリーになる不安や戸惑いといった心の動きは、映画を観ている我々にもすぐ共感できる感情だと思う。キャサリンとマークのルビ夫妻は、障害者に偏見はないが、障害に深い理解があるわけでもないという、ごく普通の善良な人々だ。この夫妻の立場は、映画を観ようとする観客に近いものだと思う。

 映画は夫妻が日本の少年ふたりに出会うところからスタートし、さまざまな出来事を通して少しずつ親しさを増していく様子を丁寧に描き出す。こうしたエピソードを通して、観客である我々もまた、知的障害を持つふたりの少年に親しみを感じ始める。ふたりの個性が見えてくるようになる。ダウン症のゲンと、自閉症のジュン。ほとんど口をきかなかったジュンが、キャサリンの呼びかけに応えて初めて「グッナイ」とおやすみの挨拶をするシーンは感動的。最初はギクシャクして見えた少年たちと夫妻の関係が、ここで一気に縮まっていく。

 ルビ夫妻がゲンとジュンをどんどん好きになっていくのに合わせて、映画を観ている観客もふたりをどんどん好きになっていくはず。バスケットをするふたりに声援を送り、ホテルのランドリールームで働くゲンや、学校でドアマンをするジュンの姿を誇らしく思うはず。ルビ夫妻とふたりの幸せな暮らしがずっと続けばいい、この映画がずっと終わらなければいいのにと思う。

 映画全編にかぶさるナレーションや音楽の多用など、ドキュメンタリー映画にしては随分作り込んである。その分、観やすく楽しい映画になっています。

2002年陽春公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:「able」の会 配給協力:イメージフォーラム
一般問い合せ:イメージフォーラム 宣伝・マスコミ問い合せ:ムヴィオラ

(上映時間:1時間41分)

ホームページ:http://taki.co.jp/able/

Amazon.co.jp アソシエイト

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ