ナショナル7

2002/01/23 松竹試写室
フランスの障害者施設で起きた実話をモデルにしたコメディ。
障害者と性の問題はフランスでもタブーなのだ。by K. Hattori

 身障者施設で暮らす障害者と、その身の回りの世話をする女性職員の奮闘記。タイトルの『ナショナル7』とは、施設のそばを通る「国道7号線」のことだ。舞台はフランスの片田舎にある身障者施設。数ヶ月前に入所してきたルネという筋ジストロフィー患者は、そのわがまま放題な態度と毒舌で施設職員を困らせている。職員たちを悪し様に罵り、女性職員をあごで使って個室の壁にヌードポスターを貼らせるなどセクハラまがいの行動もへっちゃら。自分では自由に身動きできないくせに、あれを取れ、これを寄こせ、ああしろ、こうしろ、これは嫌だ、お前はのろまだ、バカだ、ブタだ、死んじまえ、と好き勝手に吼えまくる。新しく彼の担当看護婦になったジュリも、ルネの暴言やスーパーでポルノビデオを買わせるようなセクハラにいい加減ウンザリ。だがそれでも精一杯ルネのわがままに答えようとするジュリに、ルネはある日とんでもないことを言い出す。それは「女が抱きたい。売春婦を世話してくれ!」というものだった。

 障害者の性の問題は、福祉関連の世界でも一種のタブーとされている。健康な人なら誰でも性欲があるように、障害者にだってもちろん性欲はある。だがそれは、公然と見て見ぬふりされてしまうのだ。これは「福祉」や「介護」の世界ではどこも同じようなものかもしれない。老人ホームで老人同士の恋愛が日常茶飯に起きることも、つい最近までは誰も口にしなかったではないか。恋愛やセックスは、青春を謳歌する若者と、自分ひとりで食い扶持を稼げるものだけの特権なのだ。ボランティアや介護職員に身の回りの世話をしてもらう障害者や、年金暮らしの老人は、恋愛やセックスから遠ざけられて当然だと誰もが思っている。これは日本だけのことじゃない。フランスもまったく同じだということが、この映画を観るとよくわかる。唯一違うのは、障害者ルネの「女を抱かせろ!」という要求を、施設の職員が「人間として当然の権利」だと真正面から受け止めることかもしれない。日本ではこんな要求をしても、最初から言語道断だと一笑に付されて終わってしまうかもしれない。

 障害者が恋愛や結婚をすることに、強く反対する人はあまりいない。少なくともそれは、道徳に反することではないからだ。ところが娼婦を買いたいという要求は違う。それは不道徳なことだから、周囲の人たちの中からも強い抵抗が生まれる。だがそもそも「個人の自由」とは、その個人が自分の責任において不道徳なことや危険なことをする自由ではないのか? 障害者が「個人の自由」として不道徳なことを要求したとき、周囲の人間はそれを手伝ってやるべきだろうか? 障害者の「道徳心」や「心」の問題に、周囲の人間はどれだけ干渉することが許されるのか。この映画は「障害者と性」というテーマだけを問題にしているのではない。それは映画の重要なエピソードとして、アラブ人青年の改宗問題が出てくることでも明らかだろう。最初から最後まで笑いに満ちた作品だが、語られているテーマは大真面目だ。

(原題:Nationale 7)

2002年新緑の頃公開予定 BOX東中野
配給:ザジ・フィルムズ

(上映時間:1時間30分)

ホームページ:http://www.zaziefilms.com/

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