ノー・マンズ・ランド

2002/01/23 映画美学校第2試写室
ボスニア紛争のさなか、両軍の中間地点で起きた珍事件。
2002年ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞。by K. Hattori

 昨年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、今年のゴールデングローブ賞では外国語映画賞の受賞が決まった、フランス、イタリア、ベルギー、イギリス、スロヴェニア合作の戦争映画。ボスニア紛争をテーマにした映画は過去にも何本か作られ日本でも公開されているが、この映画はその中でもきわめて低予算かつ小規模な作品と言えるだろう。だが物語の密度はきわめて濃い。時間と場所と登場人物が限定されていることで、まるで舞台劇のように濃厚な空間がそこに出来上がっている。脚本は映画のためのオリジナルだが、たぶんこれを舞台劇化しようとする人もいるだろう。そのぐらい完成度が高い脚本だ。

 タイトルの『ノー・マンズ・ランド』とは、ボスニア軍とセルビア軍の陣地にはさまれた無人地帯のこと。濃霧で道に迷ったボスニアの兵士と、偵察に出たセルビアの兵士が、この無人地帯で鉢合わせしてしまう。互いに銃を突きつけたまま、狭い塹壕の中で身動きが取れなくなってしまった2人の兵士。足もとには負傷したボスニア兵がひとり倒れているが、その体の下には地雷が埋められていて身動きが取れない。やがて塹壕のただならぬ様子を察知して、国連の防護軍に連絡が入る。その連絡を傍受して、海外のマスコミもやってくる。こうして3人の兵士が留まる塹壕を中心に、ボスニア人、セルビア人、国連軍、地雷処理班、マスコミなどが集まり、さながらボスニア紛争の縮図の様相をていするようになる。

 映画では国連軍が事なかれ主義の官僚組織として描かれていて、「国連中心主義」が絶対的価値観だと信じている日本人にとってはショッキングだ。目の前に苦しんでいる人間がいても、何もしないまま傍観するだけの国連軍。もちろんこの映画の中で、国連軍の行動はカリカチュアとして描かれている。だがこの映画は「ボスニア紛争の縮図」なのだ。映画の中の国連軍将校は、わずか数名の兵士を見殺しにしようとするだけだが、実際の紛争の中ではそれが何百倍、何千倍、何万倍にも拡大されたのだろう。この映画を作ったダニス・タノヴィッチ監督は、ボスニア軍の兵士として戦闘に参加した経験の持ち主。目の前で殺戮が行われていても何も手を出そうとしない国連軍への失望感が、この映画にも色濃く反映されているのだろう。しかしこの映画は、国連軍を批判しているわけではない。この映画は戦争に関わる一切合切をすべて批判する。戦う兵士も、馬鹿げた地雷も、戦場に群がるマスコミも、すべてが批判の対象だ。

 深刻なテーマを扱っているが、映画は全編が笑いに満ちている。戦争とはだいの大人が大真面目にすべてを破壊するスラップスティック喜劇だ。価値観は転倒し、常識よりも非常識が横行し、話し合いよりも暴力が優先される。この不条理もまた、見方を変えればギャグに成りうる。戦争という愚かしさの中で人間が正気を保つには、せめて笑うしかないのかもしれない。1時間38分の間にいろいろなことを考えさせられる映画であると同時に、笑いに満ちた楽しい映画でもある。

(原題:NO MAN'S LAND)

2002年GW公開予定 シネ・アミューズ、梅田ガーデンシネマ
配給:ビターズ・エンド

(上映時間:1時間38分)

ホームページ:http://www.bitters.co.jp/noman/

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