トマ@トマ

2002/01/09 日本ヘラルド映画試写室
最新通信設備に囲まれて8年も部屋に閉じこもったトマの恋?
インターネット時代だからこそ通じる愛の寓話。by K. Hattori

 重度の広場恐怖症で8年間も自分の部屋から一歩も出ず、直接人と会うこともできないでいるトマは、テレビ電話のようなネット端末を使って友人や家族や担当医とコンタクトを取っていた。生活自体は部屋を出なくても成り立つ。部屋を出ていかなければならない必然性はどこにもない。勘違いしそうだが、彼は別に引きこもりというわけではない。人と話をするのは好きなのだ。友だちも多い。画面にはついに一度もその顔が出てこないが、トマはそこそこ女性にうける顔立ちだし、会話だって流暢なものだ。電話でも友情ははぐくめるし、セックスだってバーチャルセックスで解消できる。でも恋愛はどうするのか? それがこの映画のテーマになる。

 保険会社の紹介で無料の出張セックスサービスを受けられることになったトマは、さっそく“マダム・ゾエの館”というバーチャル娼館に入会する。同時に担当カウンセラーが“ハートクラブ”というお見合いサービスにも入会して、色恋とは縁遠かったトマの端末には突然女性たちの顔が頻繁に現れるようになる。大勢いる女たちの中でも、マダム・ゾエの館で出会ったエヴァという女性と、ハートクラブから盛んにアプローチしてくるメロディという女の子がトマの興味を引く。だがトマは部屋を出ていくことも、部屋に人を招くこともできない。女性とどんなに親しくなろうとしても、彼女たちと直接触れ合うことはできないのだ……。

 トマの暮らしている世界は近未来に設定されており、映画に登場する技術の多くは我々の身の回りにまだ存在しない。ただし描かれている事柄の本質は、現代の生活をかなり正確に反映しているように思える。インターネットにブロードバンドで接続すると、トマが使っている端末に近いことは原始的ながら実現できるのだ。携帯電話やPHS、メールやインターネット電話を使っている感覚は、この映画に描かれている世界に近いと思う。10年もたって光ファイバーが各家庭に入り込めば、映画に登場したテレビ電話を使った各種サービスも実用になるだろう。サイバーセックスはちょっと難しいかな。

 部屋の中に8年も閉じこもっていて、少しも孤独を感じたことがないトマ。その彼が女性と知り合い親しく語り合うことで、自分の孤独を感じるくだりは身につまされる。親しいガールフレンド、担当医、母親、メーカーのクレーム担当者まで呼び出して、自分を助けてくれる人がいないか探し回るトマ。トマはエヴァに「愛している」と口走るが、僕はこの言葉をまったく本気だとは思わない。しかしエヴァという女性がトマの中に眠っていた「人恋しさ」を駆り立てたのは事実だと思う。エヴァとの出会いが、トマの生き方を大きく変えていく。

 すべてをトマの視点から描く一人称カメラ。前半は絵作りの単調さが気になるが、女性たちが登場して物語が動き始めるとそれも気にならない。脚本は『ポルノグラフィックな関係』のフィリップ・ブラスバン。監督はこれが長編デビュー作のピエール・ポール・ランデル。

(原題:THOMAS EST AMOUREUX)

2002年1月19日公開予定 シネ・アミューズ
配給:日本ヘラルド映画

(上映時間:1時間37分)

ホームページ:http://www.herald.co.jp/movies/tomatoma/

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