フォロウィング

2001/12/28 サンプルビデオ
『メメント』のクリストファー・ノーラン監督はデビュー作も傑作。
極上の短編ミステリーを読む気分が味わえる。By K. Hattori

 職業的に映画を観ているライターや編集者は、ちょっとやそっとの映画では「新しい!」「すごい!」と驚くことがない。しかしそんな映画ズレした人間を、今年「その手があったか!」と驚かせたのが『メメント』という映画だった。監督のクリストファー・ノーランは『メメント』が長編第2作目。では彼がデビュー作でどんな映画を撮っていたのかというと、これがまた一筋縄ではいかない秀逸なミステリー映画だったのだ。物語は主人公の一人称で語られ、基本的には回想形式。単純に物事を始めから終わりまで一直線に語るのではなく、時制は意図的にバラバラに切断し再配置されている。この映画を観ると、なるほどこの作品の延長上に『メメント』があったのかと納得できる内容だ。

 作家志望の青年ビルが、自分の身に起きた体験を語り始める。定職に就くこともなく、タイプライターの前で暇を持てあましていたビルは、小説のネタ探しのために道行く赤の他人を尾行するようになり、やがてそれにのめり込んでいく。だが彼はある日、尾行相手の男にそれを感づかれ、話しかけられるという失態を演じる。男の名はコッブ。空き巣狙いの泥棒だというコッブは、盗みそのものより、他人の私生活の現場を不意打ちで覗き見る行為そのものに興味があるのだと言う。尾行が趣味のビルとは、この奇妙な泥棒に親近感と興味をおぼえ、彼と行動を共にするようになるのだが……。

 自主製作の超低予算映画。ノーラン監督は平日をビデオ製作会社の社員として過ごし、毎週土曜日の1日だけを使い、20数週にわたって撮影が続けられたという。予算と撮影時間を節約するため入念なリハーサルの上で各シーンを長回しで2テイク撮影し、それを編集で交互につないでいくという制作手法。これが16ミリのモノクロ撮影という画質や色調と相まって、ドキュメンタリー映画のような臨場感を生み出している。1950年代から'60年代の低予算スリラー映画のようなたたずまいを持ちつつ、『ユージュアル・サスペクツ』の面白さとスピード感を持ち合わせた映画なのだ。

 登場人物は極端に整理されており、中心になるのは語り手のビル、謎の男コッブ、そしてビルが夢中になるブロンドの女の3人。上映時間は1時間10分。外形的には、きわめて規模の小さな映画なのだ。しかしこの映画は時制をずらして映画を観る者の想像力を刺激することで、映画が本来持っている規模の何倍にも映画の世界を広げてみせる。本来ならA・B・Cと流れるドラマをA・C・Bと倒置法で描くことで、観客はABC以外にもB'やC'、さらにDやE、そのさまざまなバリエーションを頭の中に思い描く。こうしてこの映画は映画の省略法以上に、そもそも存在しないものまで観客に伝えてしまうのだ。ドラマをC・B・Aと逆転させる『メメント』は、明らかにこの映画の延長上にある。『メメント』は衝撃的だったが、『フォロウィング』を先に観ていたらあれほど驚かなかったかもしれない。これは傑作。

(原題:FOLLOWING)

2001年12月8日公開 シネ・アミューズ
配給:アミューズピクチャーズ

(上映時間:1時間10分)

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