銀の男
六本木伝説

2001/12/19 TCC試写室
本宮ひろしの漫画をモチーフにした六本木のホストたちの物語。
監督は高橋玄。男と女のドラマに思わずホロリ。by K. Hattori

 六本木のホストクラブを舞台にした、本宮ひろし原作の青春ドラマ。ただし映画は原作漫画を「六本木のホストたちの間で語り継がれている伝説」という形で引用した、まったくのオリジナルストーリーになっている。はたしてこれで「原作」と呼べるのか? おそらく呼べないだろう。これは本宮作品の映画化を数多く手がけている制作会社のシー・アイ・エーが、無理矢理作った「本宮ひろし原作の映画」なのではなかろうか。脚本は『光の雨』の青島武だが、原作を既存作品としてそのまま劇中で引用してみせるスタイルは『光の雨』との共通点かもしれない。監督は『突破者太陽傳』の高橋玄。なおこの映画は『六本木伝説』と『青森純情篇』の2本が同時公開されるが、本宮ひろしの原作を部分的にでも引用しているのはこの第1話『六本木伝説』のみだ。

 大学の民俗学研究室で助手をしている鈴野倫子は、教授の命令で六本木のホストクラブへフィールドワークに出かける。店で出会った常連客の朋絵は、風俗の仕事で稼いだ金を店のナンバーワンホスト康平に注ぎ込んでいる。だが彼はここ数日、店を無断欠勤したまま姿を現さない。倫子はこの店で、康平が入れ込んでいたという「銀の男」の伝説を耳にする。だがそれからほんの数日後、康平は自宅で死体となって発見される……。

 この物語のキーワードは、やはり「銀の男」なのだろう。ホストと客という立場を離れ、女性の心のひだにまで入り込んで癒しを与える「銀の男」。この映画は漫画に登場したそんなモチーフを中心に、大きな同心円を描きながら物語を膨らませていく。ヒロインを演じているのは有森也実。彼女が研究室の助手とその姉を一人二役で演じるのだが、この姉が過去に出会って生まれ変わらせてくれた男が、どうやら「銀の男」のモデルらしいことをこの映画は匂わせる。伝説の「銀の男」と、その伝説に憧れながらも、「銀の男」になりきれない男たち。終盤で暴かれる理想と現実のギャップが、この映画をほろ苦い青春の挫折物語にしている。役者になる夢に挫折し、伝説のホストになる夢にも挫折した男。やはり夢は挫折してしまうのが現実なのか……。ここで「銀の男」の実在性が、ドラマ全体の救いになるのです。夢は挫折するばかりではない。夢を実現し、伝説になった男がかつて確かにいた。その事実が、挫折した者を勇気づける。

 有森也実演じる倫子は、ホストクラブという観客に不慣れな世界を案内してくれる狂言回し。物語の中心は死んでしまう康平(上野淳)やその同僚の俊也(袴田吉彦)などのホストと、店に客としてやってくる女たち。牛丼を食べながらホストクラブに通いつめるOLの話は切ないなぁ……。彼女がひいきのホストに芝居のチケットを渡すシーンやニューボトルを入れる場面は、あまりにも残酷で悲しくて泣けてきたよ。

 常連客の朋絵を演じた小野砂織の熱演には、鳥肌が立つような迫力があった。劇中の警察描写も秀逸。ディテールがやけにホンモノっぽいのだ。

2002年1月19日公開予定 俳優座トーキーナイト
配給:シー・アイ・エー

(上映時間:1時間30分)

ホームページ:http://www.cia-tv.com/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ