とらばいゆ

2001/12/18 メディアボックス試写室
『アベモン』の大谷健太郎監督最新作は女流棋士が主人公。
主演の瀬戸朝香が演技の実力を発揮。by K. Hattori

 『avec mon mari アベックモンマリ』(通称:アベモン)の大谷健太郎監督最新作は、女流棋士姉妹を主人公にした最新ラブ・コメディ。瀬戸朝香と市川実日子が姉妹を演じ、姉の夫を塚本晋也、妹の恋人を村上淳が演じている。2組のカップルがからんで四角関係になるというシチュエーションと、男勝りの元気な女性がヒロインで、一組はかなり年の差があるカップルという設定は、前作『アベモン』とそっくり同じ。ただし出演者の顔ぶれからは前作の「インディーズ臭」が消えている。『アベモン』は面白い映画だったけれど、やはり「知る人ぞ知る」「邦画ファンにはたまらない」というくくりの映画になっていたと思う。今回はその点、かなり間口の拾い映画に仕上がっているのではないだろうか。

 ものすごく個人的な話になるが、映画に登場するロケ場所のほとんどが僕の見知っているご近所だったのがちょっと嬉しい。主人公夫婦が住んでいるのは中央区・佃の高級マンション。妹は隅田川を隔てた湊か入船に住んでいるようで、姉妹の母親は月島のもんじゃ屋「やじろうべえ」の女将さん(演じているのは山口美也子)。このあたり、全部歩いていける距離です。映画の中ではロケ場所の距離関係に関係なく人物が移動するケースがよくあるが、この映画ではロケ場所で歩ける距離にある場所なら、登場人物たちもちゃんとそこを歩いている。夫と喧嘩してマンションの部屋を飛び出した姉・麻美は、ちゃんと歩いて月島の母親のところに向かう。妹の部屋を追い出された恋人・弘樹を連れて、麻美と一哉は歩いて自分たちのマンションまで移動する。こうした徒歩感覚の距離感は、地域の住人としては非常にリアルに感じられました。まぁよその人にはわからないだろうけど。

 女流棋士の世界についてはよく知らないけれど、この映画はそのあたりをかなりきちんと取材しているらしく、「なるほどこうなっておるのか」と思えるディテール描写に満ちている。将棋をさすシーンも多いけれど、これもさし手の善し悪しは別として、「なるほど戦っておるぞ。真剣勝負であるなぁ」と観客を納得させられる仕上がりだと思う。『アベモン』でも登場人物たちの台詞の掛け合いが抜群に面白かったが、台詞の魅力はこの映画でも存分に発揮されている。登場人物たちが全員着席しているような動きの少ない場面でも、台詞のやりとりの面白さで観客を映画に引きつけているのはすごいこと。もちろんこうした台詞を喋っている俳優たちも、これだけの分量の台詞を自然によどみなく喋るまでには、さぞや苦労したと思うけれど。

 塚本晋也や村上淳が上手いのは映画ファンなら誰でも知っていることだけれど、瀬戸朝香がしっかり実力をつけていることに僕は驚いている。スランプに突入して気持ちがささくれ立っているヒロインを、じつに巧みに演じてくれる。これに比べると、妹役の市川実日子はだいぶ固い。生地のままの魅力で、他の3人の“演技力”と対峙しているように見えました。

2002年2月下旬公開予定 テアトル新宿
配給:ザナドゥー、アミューズピクチャーズ 問い合せ:ザナドゥー

(上映時間:1時間58分)

ホームページ:http://www.2002travail.net/

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