ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

2001/11/08 GAGA試写室
オフブロードウェイで2年半以上ロングランしたミュージカルの映画化。
性転換のロックスター、ヘドウィグが愛を求めて全米行脚。by K. Hattori

 1989年11月9日。冷戦の象徴だったベルリンの壁崩壊のニュースを、複雑な気持ちで眺める女性がいた。彼女はベルリンの壁が築かれたのと同じ年、旧東ドイツに“男の子”として生まれ、ハンセルと名付けられた。米軍のラジオ放送でロックを聴きまくった少年時代。やがて青年へと成長した彼は米兵に見そめられ、結婚を申し込まれる。「自由を手に入れるためには、何かを犠牲にしなければならないんだ」と諭され、性転換手術を受けたハンセルは、母の名を譲り受けてヘドウィグと名乗るようになる。だがアメリカでの生活に幸せはなかった。夫は若い男と浮気して家を出ていき、残されたヘドウィグはたったひとりでベルリンの壁崩壊のニュースを見ることになる。やがてヘドウィグは自分のバンドを結成。活動を通して知り合ったトミーという少年と愛し合い、一緒に曲作りを始める。だがやがて彼は彼女のもとを去り、あろうことかヘドウィグの作った曲を自作と称してメジャーデビュー。今では全米ナンバーワン人気のロックスターになってしまった。ヘドウィグは自分の愛と音楽を取り戻すため、トミーの全米ツアーを追いかけるように各地でライブ活動を行いはじめるのだが……。

 オフブロードウェイで2年半以上もロングランヒットした同名ミュージカルを、舞台版とほぼ同じスタッフとキャストで映画化したロック・ミュージカル。監督・脚本に加え、主人公ヘドウィグ役を演じるのはジョン・キャメロン・ミッチェル。作詞・作曲のスティーヴン・トラスクも、バンドメンバーのスキシプ役で出演。物語のテーマになっているのは、プラトンの「饗宴」に登場するエロスの神話。かつて4本足、4本の腕、4つの目玉で暮らしていた人間は、神によって2つに引き離されて現在の姿になる。人間の「愛」とは、その時失われた自分の片割れを探し求める気持ちに他ならない。だがたとえ片割れに出会ったとしても、ふたつの身体がかつてのように一体となることはない。人間は消え去った片割れとの親密な関係を、永久に失われたままだ。だがそれでも人間は、失われた片割れを探し求めるのだ。

 物語はヘドウィグがステージで語る彼女の生い立ちや、全編にちりばめられた歌によって進行していく。はたしてヘドウィグはトミーに再会できるのか。彼から自分の本当の歌を取り戻すことができるのか。ところが映画は最後に、こうした数々の疑問をすっとばして奇妙なところに着地する。トミーがいつのまにかヘドウィグにすり替わり、ヘドウィグの夫だったはずのイツハクがヘドウィグの姿に変わる。なんだかよくわからない。ヘドウィグの告白はすべて虚構で、ヘドウィグ本人がイツハクの人生を盗んでいたと言うことなのかな。ひげ面のイツハクを演じているのが男性ではなく、ミリアム・ショアという女優だ。ここでヘドウィグとトミーの物語は、ヘドウィグとイツハクの物語の中に吸収されていく。

 ライブシーンでアニメーションを上映するアイデアは面白かった。これで演奏シーンが単調にならない。

(原題:HEDWIG AND THE ANGRY INCH)

2002年新春公開予定 シネマライズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ

(上映時間:1時間32分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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