ローラーボール

2001/10/31 渋東シネタワー3
平和と引き替えに自由を失った未来社会を舞台にするSF。
ジェームズ・カーンが管理社会に反抗する。by K. Hattori

 ビートルズ解散後の1971年にジョン・レノンが作詞作曲した「イマジン」が、アメリカに対する連続テロ事件によって再び脚光を浴びている。天国も地獄もなく、国境もなく殺し合いもなく宗教もない、財産も貪欲も飢餓もなく、すべての人間が兄弟のように暮らす世界を想像してみてほしいと歌うこの曲は、平和を願うメッセージソングとして知られている。この歌詞に触発されたのかどうなのか知らないが、「イマジン」発表から4年後の'75年、この曲の歌詞がそのまま実現した未来社会を描く映画が登場している。それがノーマン・ジュイソン監督の『ローラーボール』だ。(原作・脚本はウィリアム・ハリソン。)舞台は西暦2018年。世界からは国家と国境が消滅し、戦争も貧困もなくなっている。世界を支配しているのは、巨大な私企業だ。全世界の人々はその社員。人々はそれぞれの能力に応じて働き、その働きに応じて公平に富が分配されている。差別もなく、抑圧もない、すべてが平等なユートピア。資本主義が極端に発達した結果、社会の仕組みが共産化するというマルクスの予言が的中している社会だ。

 この理想社会の中で、人々を熱狂させているのが「ローラーボール」という新スポーツ。ローラーゲーム(と言っても知る人は少ないかな?)とアメフトとホッケーを合体させたようなこのスポーツで、今期の優勝を争っているのがヒューストン・チーム。そのチームリーダーであり、この世界で10年間もスター選手の地位を守っているのが映画の主人公ジョナサンだ。あと2勝で優勝が決まるという日、彼は会社の重役に呼び出されて引退を勧告される。チームと自分自身の誇りのために、この勧告を無視したジョナサン。なぜ会社は彼を引退させようとするのか? その疑問は、やがて社会の仕組み全体への疑問へとつながっていく。そんなジョナサンの動きを察知した会社側は、ゲームのルールを変更することで試合中にジョナサンを殺そうとする。

 ここで描かれているのは、平和と引き替えに自由を失った世界。主人公ジョナサンは自由を求めて、過激な闘争に身を投じるが、それはローラーボールのリンクの中だけで繰り広げられるコップの中の嵐に過ぎない。ジョナサンの反抗は「引退の拒否」という形でしか現れず、それが直接会社の上層部への暴力という形をとることはない。抵抗としてはあまりにも無力だ。だがそんなジョナサンの小さな抵抗は、全世界にテレビ中継されることで大きな意味を持つのかもしれない。

 製作費45億円を投じ、数多くの死傷者を出して撮影したという異色のSFアクション巨編だが、肝心のアクションシーンも今の目で見るとかなり迫力不足。試合シーンを撮影するにはかなりの苦労があったとは思うが、その苦労があまり絵の中で生かされていないのではないだろうか。スピード感がまったくないし、血なまぐさい暴力の凄惨さも伝わってこない。単に僕が最近のアクションに慣れきってしまったせいなのかなぁ……。

(原題:Rollerball)

東京国際映画祭・特別上映
(上映時間:2時間3分)

ホームページ:http://www.tiff-jp.net/

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