アモーレス・ペロス

2001/10/25 メディアボックス試写室
メキシコの新人監督が撮った3話オムニバス風のドラマ。
血なまぐさい愛の葛藤を描く2時間半。by K. Hattori

 メキシコの新人監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥによる、愛と暴力と人間の弱さについての物語。2時間半の長尺だが、自動車が猛スピードで市街地をぶっ飛ばすカーチェイスが冒頭にあって、一気に物語の中に引き込まれる。自動車の後部座席に瀕死の犬を載せて走る車を、銃を持った男たちが乗り込む別の車が追いかける。なぜ犬は死にかけているのか? 犬を運ぶ男たちは誰から逃げているのか? 映画を観ている側にはまったくわけがわからないまま、車は赤信号の交差点に突っ込んで大クラッシュ。物語は過去に戻る。

 映画はこの交通事故を起点として、全体が3部構成になっている。兄嫁に恋した若者が、駆け落ちの費用を稼ごうと闘犬にのめり込んでいく姿を描く第1話。交通事故に巻き込まれたモデルと恋人の生活が、徐々に崩壊していく姿を見つめる第2話。殺し屋として世捨て人のような生活をしている初老の男が、ある殺しの依頼を引き受けるところから始まる第3話。すべてが独立した話というわけではなく、3つのエピソードは少しずつオーバーラップしながら映画全体を作り上げている。時間の経緯が前後したりするので、3つの話がどこでどう重なり合っているのかを飲み込むのに少々骨が折れる。しかし映画をすべて観終わると、すべてがピタリとあるべきところに収まって、ひとつの大きな絵を作り上げるのだ。

 映画冒頭がいきなり血まみれの犬で始まり、その直後に出現するのは凄惨な交通事故現場。闘犬場の床は敗れた犬の鮮血で染まり、殺し屋に突然命を奪われた男の鮮血が熱い鉄板の上で沸騰する。この映画はかくも血なまぐさい。その血なまぐささと隣接する部分で、ラブストーリーを描くという趣向だ。どのエピソードも、必然的にかなりヤバめの匂いがする。一触即発。命綱なしで綱渡りをするような危険な愛の数々。

 登場する3つの愛は、どれも報われることなく終わる。ある愛は裏切りと失望の中で息絶え、別の愛は互いのエゴの中でゆっくりと窒息していく。愛を諦めていた男は過ぎ去った愛の日々を取り戻そうともがきつつ、自分自身の血塗られた姿を見て姿を消してしまう。愛の対象と結ばれることだけが幸福だとするなら、この映画に登場する3つの愛はなんとも空しい結果しか生み出さなかったことになる。だがもし愛がなければ、この映画の主人公たちの人生はもっと空しかったかもしれない。実りのない愛と格闘することで、彼らは自分自身の人生の中で最も輝かしい一瞬を手に入れたのかもしれない。その時は徒労に思え絶望しか感じられなくてもだ。

 殺し屋の「愛している」という言葉が相手に届かなかったことが、この映画に描かれた愛のすべてを象徴している。どんなに心から相手を愛していても、その想いが相手に伝わらない。それは青年と兄嫁の関係や、不倫の末に結ばれた中年男とモデルの関係でも同じだ。原題は『犬のような愛』という意味。人間は言葉を持っていても、愛する気持ちを相手には伝えられない。

(原題:AMORES PERROS)

2001年12月公開予定 シネセゾン渋谷
配給:東京テアトル 配給協力:メディアボックス

(上映時間:2時間33分)

ホームページ:http://www.cinemabox.com/

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