trumpi トルンピ
アントン・ブリューヒンの口琴新世界

2001/09/28 シネカノン試写室
世界中で親しまれている口琴という楽器についての映画。
試写は巻上公一のミニライブ付きだった。by K. Hattori

 録音された自分の声を聞いて「俺ってこんな声なのか?」と違和感を感じた経験は誰にでもあると思う。人間は自分自身の声を正確に聞き取ることができない。声は喉から口を通って外に発声されると同時に、骨伝導を通じて内耳に達しており、両者の合成音が発声者の耳に届くからだ。この映画は口にくわえた金属片を振動させて音を出す楽器「トルンピ(口琴)」についてのドキュメンタリーだが、おそらくこの楽器の魅力の本当のところは演奏者自身にしかわからないと思う。口にくわえた口琴を振動させれば、歯やアゴや頭蓋骨を通じてその振動は内耳に直接音を伝える。内耳をダイレクトに振動させるダイナミックな音色に比べれば、口内で共鳴させて外部に聞こえてくる口琴の音などたかが知れている。

 口琴はきわめて原始的な楽器で、日本にも子供の玩具として似たような物があったそうだ。ヨーロッパからアジア、アメリカ大陸に至るまで、古くから世界各地に広まっていて、原始的で単純な構造ゆえに、これはこれで奥が深そうだ。映画は口琴の世界的な演奏者アントン・ブリューヒンがヨーロッパからユーラシア大陸を横断して日本に至るまでの旅を取材しているが、その最後にブリューヒンの共演者として登場するのが、ヒカシューのリーダーでもあるミュージシャンの巻上公一。じつはこの映画の配給を担当しているのが巻上公一オフィスであり、試写の前にも巻上氏の挨拶と口琴の実演があった。その上で痛感したのだが、口琴の音色は実際の演奏を生で聴かないとその面白さが理解できない。指ではじいた金属片の振動を口腔内で複雑に共鳴させ、音に微妙なビブラートをかけたり倍音を発声させたり音量をコントロールしたりする妙技の面白さが、残念ながら映画のサウンドトラックからは伝わってこないのだ。

 口琴演奏家でありこの映画の配給者でもある巻上氏もそれを考慮してのことだろうが、この映画がBOX東中野で公開される時は連日のように口琴のライブや、映画の主人公であるアントン・ブリューヒンによる口琴ワークショップが行われる予定となっている。映画だけ観ても、口琴の面白さや魅力は3割ぐらいしか伝わらないと思う。この映画はぜひとも、ライブやワークショップと共に楽しまなければならない。映画だけに比べるとチケット代は倍以上するけれど、おそらくは絶対にその価値がある内容だと思う。映画はストーリー性も希薄で、それだけ観ていたのでははっきり言って退屈だと思う。

 口琴の音色を口の中で共鳴させる技法は、中央アジアに伝わる伝統的な歌唱法「ホーメイ」にもちょっと似てると思った。(映画を観ながらそんなことを考えていたら、今回この文章を書くために巻上氏のホームページを見たところ、彼が日本トゥバホーメイ協会の代表でもあることを知って何となく納得。)映画が面白いか面白くないかは別としても、この映画を観れば誰だって何が何でも口琴がほしくなるはず。人を何らかの行動に駆り立てるのだから、この映画はすごい映画なのかもしれない。

(原題:trumpi)

2001年10月20日公開予定 BOX東中野
配給:巻上公一オフィス

(上映時間:1時間10分)

ホームページ:http://www.makigami.com/trumpi/

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