修羅雪姫

2001/09/12 徳間ホール
釈由美子が凄腕の女暗殺者を演じるSFチャンバラ活劇映画。
アクションシーンはすごいが心理的な爽快感はない。by K. Hattori

 かつて梶芽衣子主演で藤田敏八監督が映画化したこともある小池一夫と上村一夫の劇画を、まったく新たな設定に読み替えて映画化したSFアクション映画。原作は未読だが、藤田版の映画は明治時代の日本が舞台の『女囚さそり』だそうだ。今回の映画では、物語の舞台が現代になっている。ただしこの映画に登場する日本は、鎖国を500年も続けながら独自の全体主義国家となった「もうひとつの日本」だ。隣国で皇帝を守る近衛兵として働いてきた建御雷(たけみかずち)家は、帝政の崩壊によってその地位を奪われ、今では日本に逃れて政府お抱えの暗殺集団に成り果てていた。かつて大勢いた仲間は散り散りとなり、残るメンバーはリーダーである白雷の鉄の規律によって縛られている。主人公の雪は、ある日出会った謎の老人・空暇から驚くべき話を聞く。雪の母は建御雷家当主の血を引く女で、雪も本来なら建御雷家の当主となるべき血筋。しかし現リーダーの白雷は雪の母を殺して建御雷を私物化しているのだ。雪は母の仇を討つため白雷に挑むが、多勢に無勢で逃走を余儀なくされる。傷ついた雪が出会ったのは、隆という青年だった。彼もまた心に大きな傷を負っていた……。

 監督は『LOVE SONG』の佐藤信介。主人公の雪姫を演じるのは人気アイドルの釈由美子。隆を演じるのは監督の前作『LOVE SONG』に主演していた伊藤英明。建御雷家を率いる白雷を嶋田久作が、反政府テロ組織のリーダー城所を佐野史郎が演じている。アクション監督は香港随一のアクション野郎ドニー・イェン。今回はアクション演出のみで、本人は出演していないのがちょっと残念なような気も……。特技監督は『ガメラ』シリーズの樋口真嗣。配役の上で笑っちゃうのは、雪の母親を演じているのが『リング』で山村志津子を演じた雅子で、雪に母親の話を伝えに来た空暇を演じているのが同じく『リング』で山村敬を演じていた沼田曜一であること。このふたりが出てくると、そこが濃厚な『リング』ワールドになってしまう。頭の中では「山村志津子=雪の母」「雪=山村貞子」とい方程式が出来上がってしまうのだ。この配役はちょっと難ありじゃないのかな……。

 主人公の雪は反政府勢力を掃討する暗殺団の元メンバーだが、組織のあり方に疑問を持ってそこを抜け出す。雪を助ける隆はその逆に、反政府ゲリラとして戦いながら、そんな自分の姿勢に疑問を感じ始めている。まるで正反対の立場から似たような生き方をしてきた男と女が出会い、そこで心の交流を持つのだ。共に感情を心の中に封印しているふたりが、最後に感情を爆発させるシーンは切なくて悲しい。この人物配置はなかなかよくできている。アクション監督がドニー・イェンだから、殺陣はすべて香港流のスピーディーなもの。釈由美子は飛んだり跳ねたり大車輪の活躍だし、スタントとの馴染みもいい。ただし血が沸騰しそうな興奮は、残念ながらこの映画では味わえなかった。感情の爆発がアクションに結びつかないから、活劇にカタルシスがないのだろう。

2001年12月上旬公開予定 テアトル新宿
配給:東京テアトル、ザナドゥー
(上映時間:1時間32分)

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