純愛譜

2001/08/14 映画美学校第2試写室
韓国の映画監督が日本でロケした本格的な日韓合作映画。
着想は面白いかもしれないが映画はイマイチ。by K. Hattori

 『イルマーレ』『Interview』など主演作が次々日本公開される韓国の俳優イ・ジョンジェが、インターネットのピープショーに登場する日本人少女に恋焦がれるという異色の恋愛映画。監督はデビュー作『情事』でイ・ジョンジェと組んだイ・ジェヨンで、これが長編第2作目。ピープショーの美少女「朝子」こと彩を演じているのは、これが映画デビューとなる橘実里。映画はイ・ジョンジェ扮する役所勤めの男ウィンの物語と、日付変更線の上で自死するためにアルバイトに精を出す予備校通いの彩の物語がパラレルに進行する。ふたりの物語は最後の最後まで交わることがない。主人公カップルが互いに接点を持たないまま映画が進行し、最後の最後にようやく巡り会うという構成は『ワンダーランド駅で』みたいだけれど、この映画はそれよりずっと暗く憂鬱だ。現代人の抱える倦怠感や孤独がテーマだからだろう。

 おそらくこの映画を観て、ウィンや彩の生き方に共感を持つ人はいないと思う。ウィンは役所勤めの仕事にも身が入らず、私生活の面でもだれきっている。彼の心のよりどころは、役所に隣接する文化教室のパン教室でアシスタントをしている赤毛の少女とインターネットポルノだけ。薄暗い部屋でインターネットのH画像を見ながらマスターベーションしたり、女子トイレの中に隠れて女性の着替えを盗み見たり、憧れの赤毛少女の使用済みトイレに入って匂いをかいだり、仕事で撮影した少女の顔写真とインターネットのヌード画像を役所のパソコンで合成して、それをオカズにオナニーにふけったりしている男の姿は、ある意味でリアルな現代人の姿かもしれない。でもこんなものに共感を覚える人はいないよ。ここには笑いがない。こういう間抜けな日常を「バカだねぇ」と笑い飛ばせれば、まだこの男に共感できるんだけど、この映画は笑えるところがまったくない。バカはバカでもいいんだけど、それを笑い飛ばした上で「しょうがないから応援しちゃおうか」というところがない。

 理由なんてなく、ただ死にたいだけだという彩の気持ちも僕にはよくわからなかった。思春期の少女が死にたいと思うこと自体は構わないけれど、死と引き替えにして構わないと思うほど、彼女の日常は退屈でくたびれているのだろうか。祖母の死や両親のいさかいという背景が語られてはいるが、それと「死」は即座に結びつかない。おそらく一種のファンタジーとして、彩は「死」に惹き付けられているのだろう。息を止めたまま死ぬという自殺の方法が、そもそもファンタジーなのだ。しかしこの映画を観ていても、彩の惹き付けられている「死のファンタジー」がそれほど甘美なものには思えない。

 この映画は韓国の映画監督が、日本に住む日本人の日常生活を日本語で描いているという点がユニークだと思う。でも下手くそなんだよなぁ。朝子(彩)の履いているルビーの靴は『オズの魔法使』を引用しているのだろうけれど、それもあまり効果的とは思えなかった。着想はユニークでも、それが映画の中で生きていないと思う。

(原題:純愛譜)

2001年10月公開予定 渋谷シネパレス
配給:松竹 宣伝:パンドラ
(上映時間:1時間55分)

ホームページ:http://www.shochiku.co.jp/cinema/jun-ai-fu/index.html

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