フェリックスとローラ

2001/07/26 映画美学校試写室
シャルロット・ゲンスブールとフィリプ・トレトン主演のラブストーリー。
監督はパトリス・ルコント。地味な恋愛ドラマ。by K. Hattori

 日本でも人気のある映画監督パトリス・ルコントの最新作。主演は日本でも人気のあるシャルロット・ゲンスブールと実力派のフィリップ・トレトン。トレトン演じる主人公フィリップが、クラブで歌う男性歌手をピストルで射殺するという衝撃的なオープニング。一体全体、フィリップはなぜ歌手を殺さなければならなかったのか。物語はそこから少し過去に戻り、移動遊園地経営者のフィリップと、そこを偶然訪れた女性客ローラの出会いと恋愛の始まりを物語る。バンパーカーに乗ったまま、ぼんやりと不幸そうな顔をしているローラ。そんな彼女にフィリップはただならぬものを感じ、彼女に声をかける。「私を雇って」「いいとも」。こうして翌日から、ローラはフィリップの遊園地で働き始める。自分の過去を語らず、どこか謎めいているローラ。彼女の周辺に見え隠れする男の影。ローラは何かに怯えている。だがそれはどんな理由で? フィリップはローラを心から愛しているが、彼女にどんな手助けもしてやることができない。彼にできるのはただ彼女を愛することだけ……。

 導入部に大きな事件を置き、そこに至るまでを回想形式で描くミステリー映画風の構成。ただしこの構成にはちょっと仕掛けがあり、映画の最後にそれがわかるようになっている。映画の冒頭が殺人事件で、物語はその事件に向かって進んでいく。どう考えてもハッピーエンドになりそうもないドラマ。これが映画全体に少し憂鬱な空気を投げかける。最近のルコント作品では、『橋の上の娘』も薄暗い雰囲気だったし、『サン・ピエールの生命』もアンチハッピーエンドだった。でも『橋の上〜』にはモノクロ映像という特徴があり、『サン・ピエール〜』は時代劇という特徴を持っていたため、薄暗さもアンチハッピーエンドもその一段下に隠される。『フェリックスとローラ』は現代劇で、主人公もヒロインも姿勢の一般庶民。ごく普通にいる我々の隣人だ。それだけに、この映画の持つメランコリックな空気が一層際だつ。殺される男性歌手の物憂げな歌声が、何度も何度も繰り返し映画に登場して観客の気持ちを暗くする。

 しかしこの「暗さ」や「憂鬱さ」こそが、ルコント監督が仕込んだこの映画の仕掛けなのだ。恋することで生じる息苦しさや身を切り裂かれるような痛みと、その合間にほんのわずか味わうことができる小さな喜び。恋愛というのは喜びと苦しみの混合物ではないだろうか。恋の苦しさや辛さを知らない人は、まだ本当の恋をしたことがない人なのだ。フェリックスとローラの関係は、どちらかというと辛さや苦しみの方が多い。辛さや苦しさの中で、ふたりは自分たちの愛情を実感する。見るからに不幸そうなローラとつきあい始めたことで、陽気で愉快な男だったフェリックスもどんどん憂鬱そうな顔に変っていく。なんだか嫌な関係だなぁ……。

 恋愛を必要以上にドラマチックに演出したがる女性というのはいそうだから、こういう映画に共感する人もいるかも。でも僕はローラみたいな女は御免だね。

(原題:Felix et Lola)

2001年11月公開予定 Bunkamura ル・シネマ
配給:シネマパリジャン
(上映時間:1時間29分)

ホームページ:http://www.cinemaparisien.com/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ