エスター・カーン
めざめの時

2001/07/23 映画美学校第2試写室
アーサー・シモンズの小説をアルノー・デプレシャン監督が映画化。
主演はサマー・フェニックス。面白いと思えない。by K. Hattori

 『そして僕は恋をする』のアルノー・デプレシャン監督が、イギリスの作家アーサー・シモンズの同名小説を脚色した最新作。僕はデプレシャンの映画を『二十歳の死』と『魂を救え!』しか観ていないのだが、どちらも僕の生理には合わない作品だった。今回の映画も、僕の生理にまったく合わない。どこが面白いのかさっぱりわからないのだ。主演はサマー・フェニックス。リバーやホアキンなどフェニックス兄妹の末っ子だ。

 物語の舞台は19世紀末のロンドン。貧しいユダヤ人家庭に生まれた主人公エスターは、感情表現の乏しい地味な少女。だが彼女は初めて観た芝居の魅力にとりつかれ、自分も女優になりたいと決意する。仕事の合間に舞台のエキストラや代役から女優への道を歩み出すエスターは、老俳優の手ほどきで俳優としてのテクニックを身につけ、劇作家との関係の中でスターとして磨きをかけられ、ついに大舞台で主演を演じるまでになる。だがその舞台の直前、恋人だった劇作家の裏切りを知ってショックを受けるエスター。はたして彼女は、無事に初めての大舞台を乗り切ることができるのか否か……。

 ひとりの少女が自分の夢を実現するため、さまざまな人たちの助けを借りながら、女優としても人間としても成長してゆくという典型的な教養小説風ドラマ。これはごく普通に脚色して演出すれば、ワクワクドキドキする極上の娯楽映画になりそうなのに、デプレシャン監督はあえてそうした娯楽路線からはずれていく。世紀末のロンドンや演劇界を丁寧に再現しながら、登場人物たちに魅力がまったくないのはわざとしか思えない。これはヒロインを演じたサマー・フェニックスの演技力とか、そういうレベルの問題ではなく、監督の映画作りの姿勢がこうした映画を作り出しているのだと思う。名優イアン・ホルムにしても、この映画の中では何を考えているかさっぱりわからない、およそ人間的魅力のかけらも見えない不気味な老人としか描かれないではないか。エスターとこの老俳優の関係はとても師弟関係に見えず、老俳優のレッスンをいくら受けてもエスターの演技が上達したようには見えてこない。劇作家フィリップとエスターの関係にはそもそも打算的なものがあるのだが、それにしたって多少はロマンティックな雰囲気がないと、その後のエスターの狼狽ぶりが納得できないではないか。

 最大の問題は、この映画のエスターが最初から最後まで暗くて地味な少女のままであり、スター女優としての輝きが最後まで垣間見られないことだと思う。女優としてのエスターは、老俳優ネイサンのレッスンでまずテクニックを身につける。しかしテクニックだけではすぐに限界を感じ、ネイサンに「恋をしなさい」とアドバイスされたことを受けてフィリップに近づく。フィリップの庇護のもとで、エスターはスター女優へと脱皮し、最後はフィリップの支配力を抜け出してひとりの女性として自分の人生を歩むようになる。その中でのヒロインの変化が、この映画では描き切れていないように思う。

(原題:Ester Kahn)

2001年秋公開予定 シャンテシネ
配給:セテラ
(上映時間:2時間25分)

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