ロシアン・ブラザー

2001/07/10 TCC試写室
サンクトペテルブルクでマフィアの世界に入り込んだ兄弟の物語。
監督・脚本は『フリークスも人間も』のアレキセイ・バラバノフ。by K. Hattori

 『フリークスも人間も』が日本で公開されているアレキセイ・バラバノフ監督だが、ロシアではその前年に公開され大ヒットを記録したのがこの『ロシアン・ブラザー』だ。2年後には続編も作られている。兵役を終えて故郷の町に戻ってきた青年ダニーラだったが、町には仕事もなく、彼はサンクトペテルブルクにいる兄を頼ることにする。実業家として成功しているはずの兄だったが、その実態はマフィアの殺し屋だった。ダニーラは兄を助けるように、自らも殺し屋稼業に足を突っ込むことになる。原題はおそらく「兄弟」という意味だろう。「BRAT」は「BROTHER」にあたるロシア語だと思う。そういえば北野武監督の『BROTHER』は、弟を頼ってアメリカに渡った兄が現地でギャングとしての頭角を現してゆく物語だった。『ロシアン・ブラザー』はちょうどその逆になっている。兄を頼って都会に出た弟が、暴力の世界で兄以上の才能を見せる話だ。いわばこの映画はロシア版『BROTHER』なのだ。あ、タイトルそのままだね。

 ダニーラを演じているのは、『イースト/ウエスト 遙かなる祖国』で水泳選手を演じていたセルゲイ・ボドロフ・ジュニア。兄ヴィクトルを演じているのは、『フリークスも人間も』にも出演していたヴィクトル・スホルコフ。エピソードや周辺人物の描写などに少し未整理な部分も見られるのだが、このふたりの存在感が映画全体の要になっている。ボドロフ・ジュニアのエネルギッシュな若々しさが物語り全体を引っ張っていくが、ドラマの合間合間でスホルコフが登場すると、そこで画面がぎゅっと引き締まる。若いダニーラは自らの行動によって道を切り開いてゆく新しいタイプのロシア人であり、兄ヴィクトルはコネと口利きで世の中を渡ってゆく古いタイプのマフィアだ。観客は思ったことがすぐ顔に出るダニーラに好感を持つだろう。いつもニヤニヤ笑って、胸の内で何を考えているのかまったくわからないヴィクトルを不気味に感じるだろう。

 マフィアや殺し屋の話なので、当然のことながら映画には暴力シーンが何度も登場する。しかしこの映画はそれを巧みに省略することで、映画最後のクライマックスまで観客の暴力シーンに対する感覚を麻痺させず温存することに成功している。例えば映画の一番最初、映画撮影現場に紛れ込んだダニーラが袋だたきにあうシーンでは、暴力シーンをすべて割愛。ダニーラが最初の仕事をするシーンは、射殺シーンそのものを画面からはずして音と台詞だけで描写。しかし映画が結末に近づくに従って、直接的な暴力描写は増えていく。

 共産主義体制が崩壊した今のロシアを描いているという点で、なかなか興味深い映画になっている。この映画で一番スリリングなのは、ダニーラが殺しの仕事の合間に、若者たちのパーティ会場に紛れ込む場面だと思う。一方に血なまぐさい暴力があり、一方には自由を謳歌する若者たちがいる。このコントラスト。最後にマクドナルドが登場するのも面白い。

(原題:BRAT)

2001年8月4日〜9月24日 三百人劇場「ロシア映画の全貌2001」
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