宇宙飛行
2001/07/02 シネカノン試写室
1935年に作られたソビエト初のSF映画。なんとサイレント。
ミニチュアやアニメなどの特撮が見どころ。by K. Hattori
1935年に製作された“ソビエト初のスペース・ファンタジー映画”。モノクロのスタンダード画面。なんとサイレント映画です。(ただし今回上映されたプリントは、音楽だけが録音されているサウンド版です。)時は近未来……。といっても1935年当時から見た近未来の1946年。ソビエト初の有人月ロケットが完成し、開発者であるセドゥイフ博士、研究用の助手マリーナ、その恋人ヴィクトルの弟アンドリューシャの3人を乗せて人類初の月面探検を行うというお話。上映時間は70分。宇宙空間ではたして人間が生命を維持できるのかというサスペンスが物語を引っ張り、ビジュアル面では未来都市やロケット発射台の精巧なミニチュアセットと月面探検の様子をリアル描いた特殊撮影が目を引く。
実際の有人月旅行はこれより30年以上も後にならないと実現しなかった。それどころかソ連もロシアも未だひとりとして宇宙飛行士を月面に送っていない。しかしこの映画は、おそらくこの当時としては最大限の科学的知識を総動員して、遠からず実現するであろう有人月旅行の様子をスクリーンに描き出している。科学的な考証の面においては、30年後にキューブリック監督が『2001年宇宙の旅』で行ったのと同じレベルの注意が払われているように思う。感動的なのは、月に到着した博士たちが月面を探検する際、月の重力が地球の6分の1である点がきちんと再現されていること。宇宙服を着込んだ博士とマリーナは、山を駆け上がり、谷を飛び越え、月の表面を自由自在に高速移動してゆく。このシーンは派ペット・アニメーションで描かれていて、手作りの素朴な特撮が、観るものをワクワクさせてくれるのだ。
アンドリューシャが博士に連れられて初めてロケット工場を訪れるシーンは、精巧なミニチュアセットの周りをカメラがぐるりと回るこの映画前半の大きな見せ場。このセットはじつに精巧に出来ている。ロケットの巨大さを演出するため、ミニチュアの周囲に人形を配置しているのだが、この人形がちょこちょこ動いて芝居をするのです。作業用のカートがロケットの周囲を行き来したり、工員たちが立ち話をしていたりする。今ならミニチュアに実景の人物を合成するところでしょう。
サイレント映画特有の約束事と、科学考証のリアリズムが矛盾を引き起こしているところもあって笑ってしまう。月面で行方不明になった博士を捜すとき大声で叫ぶとか、岩にはさまれて身動きとれない博士が「おーい、ここだここだ」と言わんばかりにやっぱり叫んだり……。月には空気がないんだから、叫んだって無駄だってば。
月の裏側に宇宙船が着陸し、地球に通信を送るために月の表側まで歩いていくというのもすごい話。月は地球に比べりゃ確かに小さいし、重力も地球の6分の1だから徒歩でかなりの距離を移動できるかもしれない。でも月の裏側から表まで歩くのは、ちょっと無理だと思うぞ。
地球に帰還したロケットが、広場の噴水を壊して着地するというのはいいセンスです。
(原題:Kosmicheskii Reis)