LADY PLASTIC

2001/06/29 イマジカ第1試写室
映画作りの情熱が狂気への一線を越えたとき怪談が生まれる。
監督は『突破者太陽傳』の高橋玄。面白い。by K. Hattori

 『突破者太陽傳』の高橋玄監督最新作は、特殊メイクの仕事をしている青年を主人公にしたホラー映画。正直言って、映画上映が始まってすぐにこれがビデオ撮影であることがわかった時はがっかりさせられた。映画の舞台は映画撮影所だ。これは「映画を作る映画」である。なのにビデオ撮影とはちょっと寂しくないかのか……。しかしこうした気持ちは、映画の進行に合わせて急速に薄れていく。この映画は撮影段階で照明やカメラ操作などにもかなり工夫をしているらしく、画像にはビデオ撮影特有のチープさがあまり感じられない。画面にはきちんと奥行きが感じられるし、明暗のコントラストも明確で、シーンによってはフィルムとあまり遜色のない絵になっていると思う。明暗のコントラストや動きの激しい場面になると、とたんに画面の荒さが気になってしまうが、これは許せてしまう範囲だろう。むしろ人物の動揺を表現するため人物の周囲で背景を一回転させたり、ヒロインの瞳の色を淡いブルーに光らせるなどの演出を、ビデオだからできた効果として評価しておくべきではなかろうか。もちろん同じことは今の技術ならフィルムでも可能だけれど、かかる費用は桁違いになってしまうはずだ。この映画にはビジュアルエフェクト・プロデューサーとして、デジタルシネマ『D』の監督でもある岡部暢哉の名がクレジットされている点にご注目。

 30年前に撮影が中断されたまま「呪われた企画」と呼ばれていた映画『森の瞳』が、今や世界的な監督となった赤木宏明の手で再開される。ヒロインに大抜擢された若い女優のフェイスマスクを作った特殊メイクアーティストの井上淳は、型の中から現れた顔が、モデルとなった女優と似てもにつかない別人であることに驚く。じつはその顔こそ、30年前に『森の瞳』に出演するはずだった女優・霧島美映のものだった……。

 この映画のテーマは「怪談話」ではないのだ。ここで描かれている中心テーマは、映画を作る人間たちの一部が持ち合わせている度を超した情熱だ。それは「狂気」と呼ぶべきかもしれない。そしてその狂気を持ったものだけが、監督としても俳優としても人から抜きんでたものになる。あるいは逆に、一流の監督や俳優になろうとする者たちは、あえて危険な狂気に身をゆだねるのかもしれない。これは『スター・ウォーズ』に登場するフォースのダークサイドみたいなものだ。

 この映画の中では主人公と対立する“悪役”の位置づけにある赤木監督だが、何が何でも自分の理想の映画を作るのだという狂気じみた情熱を観ていると、つい「せっかくだから映画を作らせてやれよ」と思ってしまう。ひとりの男がそこまで情熱を傾ける映画を、ぜひ観てみたいという気持ちにさせられてしまう。映画のクライマックスが盛り上がらないのは、映画を観ている側がついつい主人公より監督を応援してしまうからだろう。この監督に対する共感は、おそらくこの映画を撮った高橋監督自身の中にもあるに違いない。

2001年9月29日公開予定 シネマ・カリテ
製作:シー・アイ・エー、ハマーズ

ホームページ:http://www.hammers.co.jp/ladyplastic/



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