ロベルト・スッコ

2001/06/04 日仏学院エスパス・イマージュ
1980年代に実在した連続殺人鬼の犯罪歴を完全映画化。
人間の心の闇の深さに慄然とさせられる。by K. Hattori

 ある家で見つかった、バスダブに突っ込まれた2体の惨殺死体。物語はそこから突然5年後にジャンプする。海辺で出会った若い男女が互いに一目惚れし、おずおずとつきあい始めるというよくある話だ。映画を観ている方は、映画冒頭の惨殺死体とこのラブストーリーにどんな関係があるのか戸惑う。だがそんな戸惑いをよそに、映画はどんどん進行していく。海辺で出会ったのは自称19歳のイギリス人カートと16歳のレア。映画が進行するに従い、観客はカートの言動にちょっと辻褄の合わないところがあることが気になり始める。イギリス人だったはずがオランダ人になったりイタリア人になったりするし、19歳だったはずが次の誕生日には25歳になったりする。このカップルの話と平行して描かれるのは、フランス各地で起きる残酷な殺人事件や誘拐事件。しかし映画の中ではカートとレアの話が、殺人や誘拐と直接つながることなく中盤まで進んでいく。観客は少しずつ「カートが一連の事件の犯人なのでは?」と疑念を持ち始めるが、この映画はその結論をなかなか観客に提示しない。犯人は神出鬼没で正体不明なままだ。だが「犯人=カート」と観客が知ったあたりから、ドラマはカートを追う警察と、それを幾度も出し抜くカートの息詰まる追跡劇へと姿を変えていく。

 『倦怠』のセドリック・カーン監督が、実在の連続殺人鬼ロベルト・スッコの半生を映画化した実録犯罪ドラマ。今年のカンヌ映画祭でコンペ部門に出品されている。上映時間2時間4分は、常にじりじりとした緊張感の連続だ。同じ犯人をモデルにして「ロベルト・ズッコ」という戯曲が書かれており、日本でも堤真一主演で上演されている。だがこの戯曲は実在の事件をかなり脚色しているようだ。カーン監督は戯曲を参考にしつつ、スッコの犯罪をより実話に即して描くことを選んだ。その結果、この映画はスッコ(カート)の犯罪を淡々と描写することに徹し、彼の内面にはあまり立ち入らないというスタイルを取ることになった。なぜスッコは犯罪を犯すのか? それは誰にもわからない。我々が知るのは、スッコが犯した犯罪がどのような手順で行われ、それがどんな結果を引き起こしたのかという「現象」だけだ。

 スッコが恐ろしいのは、彼の犯罪動機が周囲にはまったく理解できないことだ。なぜ彼は殺すのか? なぜ彼は犯すのか? なぜ彼は誘拐するのか? そこにはまったく理由が見あたらない。思いつきや気まぐれということさえ気が引けるほど、スッコの犯罪は予測不可能なのだ。本人には何らかの理由があるのかもしれないが、それは周囲にはまったく伝わってこない。凶悪犯罪に動機を見つけることで、我々は安心して社会生活を送れる。犯人の「動機」に結びつく範囲に近寄りさえしなければ、それで安全が保障されるからだ。だが「動機」がない犯罪は、誰にも安全圏を保証してくれない。これはかなり怖いぞ。『ヘンリー』など実録系の犯罪映画が好きな人は必見の映画。日本公開は来年以降になるそうだ。

(原題:ROBERTO SUCCO)

2001年6月22日12:30上映 パシフィコ横浜会議センターメインホール
(第9回フランス映画祭横浜2001)

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