アメリカン・ナイトメア

2001/05/28 映画美学校試写室
'70年代のスプラッター映画はどんな社会背景から生まれたか?
ホラー映画の巨匠たちへのインタビュー集。 by K. Hattori


 ナイフや斧が身体に突き刺さり、銃弾が頭部を貫通して脳漿が飛び散る。至近距離から発射されたショットガンや大口径の弾丸は、人間の頭部を跡形もなく粉々に粉砕する。墓場から蘇ったゾンビたちが生きた人間を襲い、哀れな被害者は生きながらにしてバラバラに引きちぎられる。四散する人間の身体。飛び散る血糊や肉片。特殊メイク技術を使ってこれらの残酷シーンを描き、保守的な映画ファンの眉をひそめさせ、若者たちを熱狂させたスプラッタ映画の数々。その中からスター監督になったのが、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』『ゾンビ』のジョージ・ア・ロメロ、『ハロウィン』『遊星からの物体X』のジョン・カーペンター、『鮮血の美学』『サランドラ』『エルム街の悪夢』のウェス・クレイブン、『悪魔のいけにえ』『悪魔の沼』のトビー・フーパー、『シーバース』『ラビット』のデビッド・クローネンバーグといった面々だ。『ゾンビ』のリアルな特殊メイクを担当したトム・サビーニも忘れられない。リック・ベイカーの芸術的なメイク技術が光る『狼男アメリカン』のジョン・ランディスもいる。この映画はこうした「ホラー映画黄金期」のスターたちにインタビューし、血みどろのホラー映画がどのような社会背景から生み出されたのかについて語るドキュメンタリー映画だ。

 僕自身は『ゾンビ』以降のスプラッタ映画ブームにどっぷりとはまって中学生から高校生ぐらいの時期を送っていた世代なので、この映画に登場する監督たちに対して特別な思い入れがある。この映画を作ったアダム・サイモンという監督は62年生まれで僕より少し上の世代だが、観てきた映画という部分では大きく重なっているようだ。もっとも僕は劇場ではなく、『ハロウィン』をテレビ放送で見たり、『遊星からの物体X』や『悪魔のいけにえ』をビデオで見ているんだけど。

 この映画は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の中にベトナム戦争や公民権運動の影を見いだし、トム・サビーニのリアルな死体造形にベトナム従軍体験が深く影響を与えていたことを本人に証言させる。また『ゾンビ』の生ける死者たちを現実のショッピングセンターの映像とオーバーラップさせ、『悪魔のいけにえ』から女性の自立を語り、『ハロウィン』や『シーバーズ』からセックス革命に対する社会の葛藤をあぶり出す。映画はその作品が作られた社会情勢と密接に結びついている。作り手が意図しているかいないかに関わらず、その時代の空気を映画はたっぷりと吸い込んでいる。社会の古い秩序が崩壊していく時代に、映画だけが昔ながらの手法を守り続けることはできない。社会が残酷で狂った時代であれば、映画も同じように残酷で狂ったものになる。社会が暴力によって平和を引き裂くのなら、映画の中でも暴力が平和を引き裂いていくのだ。

 スプラッタ映画はインディーズ映画界から生まれたアメリカ映画の鬼っ子だが、この映画はそれを社会現象として語っている点がユニークだと思う。

(原題:THE AMERICAN NIGHTMARE)

2001年今秋公開予定 俳優座トーキーナイト
配給:アルバトロス・フィルム
ホームページ:


ホームページ
ホームページへ