ザ・コンテンダー

2001/05/23 日本ヘラルド映画試写室
副大統領に指名された女性議員のセックス・スキャンダル。
アメリカ政界を舞台にしたスリル満点のドラマ。 by K. Hattori


 任期途中で急死した副大統領に代わり、突然後継の副大統領に指名されたレイン・ハンソン上院議員。レインは議員生活10年のベテランだが、女性副大統領の指名に保守的な長老議員たちはあまりいい顔をしない。副大統領の正式な就任には、議会の承認が必要になる。難関は下院司法委員会での聴聞だ。委員長のシェリー・ラニヨンはレインの対立候補で一時は副大統領候補ナンバーワンと目されていたハサウェイ知事と親しかったこともあり、レイン・ハンソンの副大統領就任に難色を示す。ハンソン追い落としのため材料集めをしていたラニヨンは、ある決定的な情報を入手する。それは彼女が学生時代に起こした、セックス・スキャンダルだった。

 映画『ディープ・インパクト』では黒人がアメリカ大統領になっているし、『エアフォース・ワン』では女性が副大統領になっている。しかしこれらは一種のファンタジーであって、実際の政治とは程遠い。『ザ・コンテンダー』はホワイトハウスと議会を舞台に、政治の世界をきわめてリアルに描きだしたドラマだ。物語の中心は主人公レイン・ハンソンのスキャンダルへの対処と、彼女を蹴落とそうとするラニヨンの策謀にあるが、見どころはこれらの事件を中心に登場人物たちが繰り広げる丁々発止の駆け引きそのものだ。登場人物は皆が腹に一物持っていて、なかなかその底が見えてこない。大統領はなぜハンソンを指名したのか。彼は最後まで彼女を守り抜く気持ちがあるのか、それとも自分が不利になれば容赦なく彼女を切り捨ててしまうのか。ラニヨンはなぜかくもハンソン追い落としに懸命になるのか。ラニヨンの協力者となった若い議員は最終的にどう行動するか。対立候補ハサウェイ知事の身辺調査を進める、FBI捜査官の目的は何か。そして何よりも大きな謎となるのは、なぜハンソンはスキャンダル報道や委員会での攻撃に対して一言の反論もしない理由と、彼女の過去にいったい何があったのかという事実関係だ。こうした大小のミステリーが相互に絡み合い、観る者を最後まで映画に引き付ける。

 ジョーン・アレンがレイン・ハンソン上院議員を演じており、信念を持つ有能な政治家だが、同時に人間的な弱みも持つヒロインを好演している。ラニヨンを演じているのはゲイリー・オールドマン。目的のためには手段を選ばない老獪な政治家を、マンガチックにならない生身の人間としてじつにうまく表現している。ジェフ・ブリッジスの大統領も意外によかったし、大統領側近を演じたサム・エリオットもすごい迫力。

 日本では小泉内閣の誕生と田中真紀子外務大臣の登場で、政治が一躍国民の注目を浴びるようになった。国会や委員会で相互に文書を読み上げるだけの退屈な質疑応答が、スリル満点の劇場中継へと変貌してしまったのだ。『ザ・コンテンダー』のヒロインに、田中真紀子大臣を重ね合わせる人も多いと思う。日本の政治が大きく変わっていけば、いずれ日本でも『ザ・コンテンダー』のような政治映画が作られるようになるかもしれない。

(原題:THE CONTENDER)

2001年6月23日公開予定 丸の内ピカデリー1・他 全国松竹東急系
配給:日本ヘラルド映画
ホームページ:http://www.thecontendermovie.net/


ホームページ
ホームページへ