キシュ島の物語

2001/05/18 シネカノン試写室
イラン映画界を代表する3人の監督によるオムニバス映画。
マフマルバフ監督の第3話「ドア」が面白かった。by K. Hattori


 イランのベテラン監督3人によるオムニバス映画。物語の舞台になっているのは、ペルシャ湾に浮かぶイランでは珍しい西欧型のリゾート地キシュ島。ここはイランで最初の無関税地域であり、独自の旗を持つ半自治区。島内には国際空港があり、観光局の職員が海外からの観光客を英語で出迎えてくれる。イランで唯一のダイビングスポットと、イランで唯一の男女が共に泳げる外国人用ビーチもある。以上はプレス資料の受け売り。

 しかしこの映画の中には、「リゾート地」というキシュ島の顔はほとんど出てこない。登場するのはこの島に古くから住む夫婦や老人、それに本土から仕事を求めて渡ってきた青年などだ。第1話の「ギリシャ船」はナセール・タグヴァイ監督作。第2話「指輪」はアボルファズル・ジャリリが監督。第3話「ドア」の監督モフセン・マフマルバフは、全体のプロデュースもしているようだ。もともとはキシュ島の観光局から提案された企画で、最初は6人の監督がそれぞれ15分の短編を撮り、全体で1時間半の映画にする予定だったとか。結局はひとりが30分近い時間を使ってしまったため、3本ずつ2つの映画に分けて公開されることになったらしい。当然マフマルバフ本人も時間オーバー。

 イランでは映画を撮影する前に必ず政府の検閲を受けなければならないのだが、この映画は「半自治区」であるキシュ島で撮影されていることもあり、検閲官のチェックなしに、6人の監督たちが自由に自分たちの作りたい作品を撮ったのだという。こうなると今回の3本の他に存在する残り3本の映画も観てみたいけれど、それが日本で公開されるかどうかはわからない。この映画にはジャリリとマフマルバフという、日本でも比較的名前の知られている監督が参加している強みがある。もっともイラン映画が次々日本で公開されているから、この映画の姉妹編が公開される可能性もゼロではない。

 第1話「ギリシャ船」は、海岸にうち寄せられる色とりどりの段ボールで家の修繕をしようとする男の妻が、精神に異常をきたして悪魔祓いの儀式を受けるという話。霊媒師の家でも床や壁に段ボールが敷いてあり、コダック、コニカ、ソニーなどの海外ブランドのロゴと、昔ながらの悪魔祓い儀式のコントラストが面白い。第2話の「指輪」は、海岸沿いの小さな小屋でトラックのタンクに海水を汲み上げる仕事をしている青年の小遣い銭稼ぎを、ひたすら淡々と描写する。ゴミの山から鉛を取りだしておもりを作り、すぐそばの海で魚を釣ってドライバーに売る。拾ってきた貝殻を土産物屋に売る。近くの伝染から、小屋まで電気を引いてくる。最後のオチも感動的だが、映画のほとんどを占めるあの手この手の商売ぶりがなかなか痛快。第3話の「ドア」は、唯一の家財道具であるドアを背負って歩く老人の物語。舞台は砂漠地帯で、登場人物たちの配置などもきわめて整理されている。シュールレアリズム絵画を見るような、ある種のファンタジーを感じさせる。これは面白かった!

(原題:Les Contes De Kish)

2001年夏休み公開予定 シネ・アミューズ
配給:ビターズ・エンド
ホームページ:http://www.bitters.co.jp/


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