走れ!イチロー

2001/04/20 東映第1試写室
震災後5年を経過した神戸を舞台にした大森一樹作品
イチローの出演シーン(?)は一応ある。by K. Hattori


 現在シアトル・マリナーズで大活躍中のイチローだが、うなぎ登りのその評判に合わせるようにして、彼の名を冠した映画が公開される。なんてタイムリー。話は映画とぜんぜん違うけど、最近のイチロー人気はどうも気になることがある。野茂の時も感じたことだけど、彼らが日本にいたときにはちっとも騒いでいなかったマスコミが、急に騒ぎ出すのはどういうわけだ。パリーグでプレイしていたというハンデもあるけれど、野茂にしろイチローにしろ、日本にいたときは不当に扱いが小さすぎたんじゃないだろうか。今じゃイチローの活躍に日本中が熱中して、テレビニュースのスポーツコーナーではいつもイの一番にイチローなど大リーグで活躍する日本人選手の話題が出てくる。少し前まで花形だったサッカーはおろか、プロ野球までがすっかり二番手三番手の扱いだ。イチローの活躍ぶりに水を差すつもりはないけれど、マスコミは優良選手が海外に行ってから追いかけ回すんではなく、ちゃんと日本にいるときから評価してほしい。海外に行った選手をスゴイスゴイと褒め立てるのは、芸能人や俳優が死んでから「もっと活躍できたのに残念」「すごい人でした」と言うのと似ていると思う。そういう後講釈みたいな評価はちょっとズルイよ。

 話は映画に戻る。監督は大森一樹で、村上龍の「走れ!タカハシ」を原作にして脚本も監督が書いている(丸山昇一との共同脚本)。映画の舞台は神戸。物語は阪神淡路大震災から5年後の2000年4月から始まる。勤めていた建設会社から出張先でリストラ告知された石川市郎が家に戻ると、そこには妻の姿がなかった。妻のパソコンに残された男からのメール。それを手がかりにして、石川は中学生の娘こよみと共に神戸に妻を探しに行く。神戸は石川にとっても懐かしい町。5年前の大震災の折、会社から現地に復旧ボランティアとして派遣され、現地の人たちと3ヶ月のテント暮らしをしていたことがあったのだ。

 物語はこの石川家を中心に、偽作家に一杯食わされたホステスと本物の作家の奇妙な交流、高校の同級生だった若い男女の恋愛模様、震災で親友を失った女子高生が新しい人生を歩み始める話など、いくつかのエピソードが同時進行していくグランドホテル形式。各エピソードを引っ張っていく人物の名前が、それぞれ「イチロー」であるというのがミソ。ここに当時はまだオリックスに在籍中だったイチローの活躍をからめて、それぞれの人間がそれぞれの人生の中に「自分のダイヤモンド」を見つけることの大切さを描き出していく。

 物語は神戸での数日間の出来事を描いていて、本家『グランドホテル』のようなエピソードの凝縮はない。もっとエピソードをぎゅうぎゅう押し込んで、イチローが出場するある一試合のなかでドラマが進行するような形式にした方が面白かったかもしれない。雰囲気としては同じ大森監督の『大失恋。』に似ている。『大失恋。』からは菅野美穂が出ているから、今回の映画からも誰か若い才能が出てくるかもしれない。

2001年4月28日公開予定 全国東映系
配給:東映
ホームページ:http://www.toei.co.jp/ichiro/


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