ココニイルコト

2001/04/17 日本ヘラルド映画試写室
真中瞳主演のヒューマンドラマ。共演は堺雅人。
恋の痛手を和らげるヒーリングムービー。by K. Hattori


 篠原哲雄監督の映画『はつ恋』の脚本家、長澤雅彦の監督デビュー作。ベストセラー「絶対音感」で知られるノンフィクション作家・最相葉月の書いた、原稿用紙にして3枚ほどのエッセイ「わが心の町/大阪ミナミ・新世界」に着想を得て、長澤監督自らが脚本を書いている。主人公は真中瞳演じる相葉志乃という20代半ばの女性だが、物語の中心になるのは彼女の同僚で、いつもニコニコ笑って何に対しても「ま、それでええのとちゃいますか」と言うのが口癖の前野悦朗という若い男。演じているのはNHKの連ドラ「オードリー」で、テレビ時代劇の演出家“杉本さん”を演じていた堺雅人だ。

 東京の広告代理店でコピーライターをしている相葉志乃は、上司である橋爪との不倫が彼の妻にばれて、50万円ばかりの手切れ金を渡されたあげく大阪支社に飛ばされる。しかも何の間違いか営業部だ。彼女は大阪支社初出勤の当日、中途入社の前野悦朗と出会う。彼とチームで仕事をすることになった志乃は、クライアントの社長を接待する席で失態を演じ、それを前野に助けられたことから彼と親しくなるのだが……。

 この映画の主人公たちと同じ20歳代半ば、僕も小さなデザイン事務所で広告の仕事をしていたので、この映画の舞台になっている世界をすごく身近なものに感じる。主人公が勤めている代理店は中堅どころという設定だが、舞台になっている大阪支社のモデルになっているのは、大阪電通で一連の面白CMを作っているチームだろう。ちなみにこの映画、製作に電通がからんでいる。主演の真中瞳は「進ぬ!電波少年」や「ニュースステーション」に出ているそうだが、僕はあまりよく知らないタレント。映画の前半は失恋のショックで仕事にも生きることにもやる気を失ってしまった「体温の低そうな女」を演じていて、僕はまったく彼女に魅力を感じられなかった。この前半部分は主人公が落ち込んで存在感が薄い間に、大阪支社の顔ぶれを一気に紹介してしまおうという狙いがあるらしい。物語が大きく動いていくのは、志乃と前野の関わりが深くなってくる中盤以降だ。

 傷心の主人公が大阪で出会った人と風景に触れることで、少しずつ立ち直っていくという“癒しの物語”です。前野はコテコテの大阪人という設定なのに、演じている堺雅人の大阪弁はとても完璧とは言えない。しかしこの役柄にコテコテの大阪出身俳優を使ってしまうと、たとえどんなにリアルになっても、ヒロインとの間に言葉遣いの違いというバリアーができてしまう。前野は主人公を大阪のディープな世界に引き込む案内人だから、言葉遣いはむしろこの程度の方がいいのかもしれない。

 志乃と前野の関係は、ただの会社の同僚と言うにしては親しすぎるが、友人というほど互いの私生活に介入しないし、ましてや恋人同士でもない。こういう中途半端でフワフワした男女関係というのが、いかにも日本的でいいなと思う。もう「LOVE」の物語は見飽きてます。これはより親身な「KINDNESS」の物語なのです。

2001年初夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:日本ヘラルド映画
ホームページ:http://www.herald.co.jp


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