ぼくが天使になった日

2001/04/13 映画美学校試写室
シャーリー・マクレーンの初監督作品だけど……。
主人公の少年にまったく共感できない。by K. Hattori


 ヒッチコックの『ハリーの災難』でデビューして以来、ビリー・ワイルダー、ウィリアム・ワイラー、ボブ・フォッシーなどハリウッド映画を代表する大監督たちと仕事をし、『愛と追憶の日々』ではアカデミー主演女優賞も獲得している大女優シャーリー・マクレーンの初監督作品。弟のウォーレン・ベイティは20年も前に『レッズ』で監督デビューしているわけだし、マクレーンほどのキャリアがありながら今まで映画監督に進出する機会がなかったというのが不思議なほど。もっともマクレーンはここ20年ほど、「アウト・オン・ア・リム」を始めとする一連の著書を通じて新興宗教の教祖みたいな立場にもなっていたから、むしろそうした精神世界の探求と啓蒙活動に自分の生き甲斐を感じていたのかもね。

 この映画は、ひとりの少年の生き方を通じて「自分らしく生きる」ことの難しさと大切さを描いたファンタジー。これがマクレーンの神秘体験や信仰世界とどう関連しているのかは、彼女の本の読者でない僕にはちょっとわからない。舞台になっているのはカトリック系の小学校だし、天使も登場すれば臨死体験も描かれる。いずれ機会があれば、マクレーンの本も読んでみなければと思っているけれど、なかなかその時間がなくってねぇ。

 大女優マクレーンの監督デビュー作に花を添えるためか、この規模の作品にしては俳優陣がやけに豪華。主人公の少年ブルーノを演じているのは『ホーム・アローン3』『偶然の恋人』のアレックス・D・リンツ。他にもオスカー女優のキャシー・ベイツ、『アポロ13』のゲイリー・シニーズ、『バウンド』のジェニファー・ティリー、往年のミュージカル女優グウェン・バードンなどが出演。マクレーン本人も、ブルーノの祖母役で出演している。バードン主演で大ヒットしていたミュージカル『スウィート・チャリティ』が映画化される際、主人公チャリティを演じたのがシャーリー・マクレーン。この映画について「チャリティはグウェン・バードンの役」と語っていたマクレーンが、自分の監督デビュー作にバードンを出演させるというところに僕は友情を感じたんですが、実際はどうなんでしょう。バードンは昨年亡くなってますから、この映画が遺作とは言わないまでも、死の直前の出演作ということになります。

 女装癖のある少年が学校でいじめられて、その母親も相当の変人で……という映画の前半は、「いじめそのものも度を超しているけど、いじめられる方も問題ありすぎだよなぁ」と思って観ていました。正直言ってまったく面白くない。途中で出てくる黒人の女の子も、平気で授業を妨害するなど観客が共感できないキャラクターです。そもそも主人公の少年は女装を称して「天使の聖衣だ」と言うのですが、ダイアナ・ロス風のファッションやアニー・オークリーみたいなガンマン姿のどこが天使なんだ? 女装が好きならそれでもいいけど、それを天使のパワーが云々と言い訳するのは筋違い。こんな生徒が学校から追い出されてしまわないのが不思議です。

(原題:BRUNO)

2001年6月公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:アルバトロス・フィルム
ホームページ:http://www.albatros-film.com


ホームページ
ホームページへ