ディボーシング・ジャック

2001/04/11 シネカノン試写室
デヴィッド・シューリス主演のミステリー・コメディ。
飲んだくれの新聞記者が大活躍。by K. Hattori


 昨年開催された「ケルティック・フィルム・フェスト」では『バイバイ・ジャック』というタイトルで上映された作品。僕は試写で観て大のお気に入りだったので、今回こうして正式な劇場公開が決まったのは嬉しい。

 政情不安定な北アイルランドを舞台に、殺人事件に巻き込まれたタブロイド紙記者の奮闘ぶりを描いたサスペンス映画。偶然知り合った女性が、何の前触れもなく突然目の前で殺され、主人公が犯人扱いされてしまうという巻き込まれ型ミステリー。被害者が残した「ディボーシング・ジャック」という謎めいた言葉の秘密。身に覚えのない秘密を主人公が握っているはずだと責める、ギャングたちの執拗な追求は何を意味するのか。記者同士の友情や夫婦の危機を巧みにドラマに盛り込みながら、ドラマは二転三転して意外な結末へとなだれ込んでいく。

 主人公ダン・スターキーのキャラクターが秀逸。正義感あふれる優秀な新聞記者だが、皮肉がきつすぎて記事の半分は使い物にならない問題児。彼の熱心なファンがいる一方で、記事の標的になった人たちからは忌み嫌われている。おしゃべりで楽天家だが、飲んだくれでいつも二日酔い気味の冴えない中年男。なのになぜか女たちにはモテモテ。演じているのはデヴィッド・シューリスだが、これが見事なはまり役だ。体力的にはまったく非力で頭脳で勝負するタイプだが、肝心の頭脳はいつもお酒でヨレヨレになっているという塩梅。てんで頼りにならないのだが、どのみち誰も助けてくれないので、この自他共に認めるダメ男が孤軍奮闘するしかない。

 このキャラクターを生み出したのは、原作者でありこの映画用に脚色も担当したコリン・ベイトマン。本人も新聞記者出身というから、新聞社内部や取材シーンの描写などはリアルなもの。監督はこれが長編デビュー作となるデヴィッド・キャフリー。どういうキャリアの持ち主か知らないけれど、コミカルな演出のセンスに秀でているように思える。これは物語の性質もあるのだが、この映画はミステリーやスリラーというより、ほとんどコメディ映画なのだ。血生臭いシーンもあるけれど、本当に残酷なのはマーガレット殺害事件ぐらいのもの。他の殺人シーンは巧妙にぼかされている。それよりも、何度観ても笑ってしまうような優れたギャグの数々に舌を巻く。一番笑っちゃうのはサランラップに穴をあけるシーンなんだけど、どんな場面なのかは観てのお楽しみ。

 被害者のダイイングメッセージがそのままタイトルになっている映画なので、もちろんミステリー映画としてもよくできている。しかしそれより面白いのは、やっぱり個々のキャラクターなのです。脇役で一番面白いのは、レイチェル・グリフィス演じる修道女。いつも不機嫌そうな顔をしているダンの妻もいい感じだし、殺されちゃうマーガレットを演じたローラ・フレイザーも可愛い。この原作には続編もあるそうなので、ぜひとも同じキャスティングで映画化してほしい。ダン・スターキーのとぼけた活躍を、もっとたくさん観たいのです。

(原題:Divorcing Jack)

2001年6月公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:アットエンタテインメント 宣伝・問い合わせ:ムヴィオラ
ホームページ:http://cinema.fan.to/works/output2.php?oid=548(とりあえず)


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