東京マリーゴールド

2001/03/26 松竹試写室
市川準監督が林真理子の短編小説を田中麗奈主演で映画化。
ダメ男とダメ女のダメな恋愛を優しく描く。by K. Hattori


 味の素「ほんだし」のCMを作った市川準監督と、出演した田中麗奈と樹木希林が再結集して作った、今どきの青春映画。林真理子の短編「一年ののち」を、市川監督本人が脚色して映画化している。市川監督は『東京兄妹』『東京夜曲』で映画スタイルを完全に確立し、その後は『たどんとちくわ』『大阪物語』『ざわざわ下北沢』などであえて自分自身が作ってきたスタイルを壊そうとしている印象を受けるのだが、今回の映画ではその“壊し屋”として田中麗奈が選ばれている印象を受けた。こぢんまりと端正な方向に収縮していく市川監督の作風の中で、田中麗奈は元気溌剌、その枠組みを乗り越えてのびのびと演技しているように見える。すべてを自分の色に染めてしまう市川演出の求心力と、田中麗奈の個性がぶつかり合って、映画の中で火花を散らしているのだ。

 21歳のエリコは、合コンで知り合ったエリートサラリーマンのタムラという男が気になってデートに誘う。だが彼は初デートの場で「僕には恋人がいる」と衝撃の告白。じつはタムラの彼女は、1年間のアメリカ留学に出ていて日本を留守にしているのだという。一度はタムラを諦めようと決心したエリコだが、その数日後に偶然彼と再会したことからまたデートをするようになる。クリスマスを数日後に控えたエリコの誕生日、ふたりはついに結ばれて、エリコは彼に「彼女が帰ってくるまでの1年間だけ、わたしとつき合ってほしい」と言う。こうしてふたりの期間限定恋愛が始まるのだが……。

 新しい女の子とつき合いながらも本命の恋人とは別れる気がない男と、そんな男の態度を十分に承知しながらずるずると関係を深めてしまうヒロイン。なんとも歯切れが悪いし、だらしがない関係のように思うのだが、得てして恋愛とはこんなものかもしれない。「ああダメだ」「私って最低だ」と思いながらも、目の前にある関係から手を切れずにいるカップルというのは多いと思う。この映画の場合、例えばタムラという男が確信犯の女たらしであるとか、名うてのプレイボーイであるという悪役のイコンを身につけているのならまだ周囲は納得できると思う。そんなタチの悪い男に引っかかってしまったヒロインは運が悪いのであり、彼女には罪がないと誰しもが納得できるからです。でもこの映画ではそうした逃げ場が用意されていない。タムラはそんなに悪い男じゃない。少々不誠実なところはあると思うけれど、この程度の男は世の中にいくらだっている。むしろダメを承知でデートをしたり、関係を深めていったりするエリコの側には、多分に自業自得という面がある。

 そもそも恋愛にまつわるドロドロなんてものは、岡目八目で周囲の第三者の方がスッキリとわかりやすいものの見方をしているものです。この映画についてもそれは同じ。ダメな男とダメな女がくっついて、ダメな関係がダメダメになるまで続いていく。でもそんなダメダメこそが恋愛なのです。恋は人を愚かにし、愚かな人は愚かな恋愛に溺れてしまう。これが恋愛の真実なのです。

2001年5月公開予定 渋谷シネパレス
配給:オメガ・エンタテインメント
ホームページ:http://j.movie-eye.tv


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