LOVE SONG

2001/03/19 SPE試写室
'80年代の青春を描く映画。テーマ曲は尾崎豊。
なんだかボンヤリした印象の作品。by K. Hattori


 映画そのもののデキがどうであるか以前に、いろいろと感慨深い映画だった。物語は1985年と'87年を舞台にしている。テーマ曲は尾崎豊の「OH MY LITTLE GIRL」と「FORGET-ME-NOT」。これが完全に“懐メロ”として劇中で使用されているのはちょっとショックだ。この映画の主人公は'85年時点で16歳の高校1年生という設定だから、僕より3つ年下になる。同じ年、僕は渋谷にあるデザイン専門学校に通い始めていた。この前年、高校3年の僕がデッサンに通っていた美術室のラジカセからがんがん流れていたのが、チェッカーズと尾崎豊だった。僕自身はどちらも積極的に聴いていたわけではないけれど、その時代の流行歌(はやりうた)は、その時代の自分自身の人生と不可分に結びついている。「卒業」という同じタイトルの歌でこの時代の高校生たちを夢中にさせていた尾崎豊と斉藤由貴(彼女と僕は同い年)が、この5年後に不倫スキャンダルを起こすなんて、この当時に誰が予想しただろう。尾崎豊は'92年4月に26歳で死んでしまう。いずれにせよ昔話だ。

 物語は'85年に始まる。尾崎豊のアルバム「十七歳の地図」がきっかけで知り合った、16歳の高校生・彰子と、レコード屋の店員・松岡。好きな音楽だけを集めたレコード屋を開くのが夢だと語る松岡に、彰子は淡い憧れに似た気持ちを抱く。だがそれからしばらくたって、松岡は夢の実現のため東京に引っ越してしまう。彰子の手元に、松岡から借りた「十七歳の地図」だけが残される。それから2年後。レコード屋の掲示板に張られた古いハガキから松岡が東京で念願のレコード屋を開いたことを知った彰子は、彼に会うため友人の哲矢と一緒に東京に向かう。だがそこで見つけたのは、廃墟となった松岡の夢の残骸だった。レコード屋は開店してわずか数ヶ月で潰れてしまったという。彰子は松岡の消息を追って、東京中を歩き回るのだが……。

 監督・脚本は『東京夜曲』『たどんとちくわ』『ざわざわ下北沢』などの市川準作品で脚本を書いている佐藤信介。自主映画の監督としても知られていた人だが、今回の作品が本格的な劇場用長編映画デビュー作となる。挫折した夢を抱えて生きる松岡を演じていているのは、『ブリスター』『クロスファイア』の伊藤英明。彰子を演じているのは『リング0〜バースデイ〜』『溺れる魚』の仲間由紀恵。大人っぽい役を演じることの多い彼女が、ちゃんと高校生に見えるのには少し驚いた。

 いろんな制約があってのことだろうが、映画としてはやや弱いと思う。'87年8月29日に有明コロシアムで行われた尾崎豊のライブが物語の中でひとつの山場になるはずなのだが、ここをあっけなく素通りしてしまうのは疑問。尾崎豊の歌が2曲しか使えないのなら、他の歌手の歌を安易に使用せず、尾崎豊の曲だけを効果的に使う工夫をした方がよかったのではないだろうか。一條俊演ずる同級生や原沙知絵扮するディスプレイデザイナーなど、魅力的なキャラクターがいるだけにもったいない。

2001年GW公開予定 渋谷東急3他 全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ホームページ:http://www.lovesong-movie.com/


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