サント・ソスピール荘

2001/03/14 シネカノン試写室
ジャン・コクトーの壁画で埋め尽くされた海沿いの別荘を、
コクトー本人が案内するドキュメンタリー映画。by K. Hattori


 詩人・小説家・舞台美術家・脚本家・映画監督・画家など、マルチな才能を発揮していたジャン・コクトー。彼がパトロンのひとりであったアレック・ウェスウェレル夫人フランシーヌ所有の別荘“サント・ソスピール荘”に描いた膨大な量の壁画を紹介するドキュメンタリー映画。案内役はジャン・コクトー本人。彼が別荘の中をあちこち歩き回りながら、絵の主題や意図についてひとつひとつ丁寧に説明してくれる。

 登場するのは壁画だけではない。カンバスに描かれた彼の絵画作品もいくつか登場するし、コクトーの映画でお馴染みのトリック撮影も何度か登場する。この映画が撮影されたのは'52年で、フィルムは16ミリのコダクローム。映画の冒頭ではコクトー本人によって、フィルムの色再現が必ずしも実物通りではないことが観客に向かって念押しされる。映画は現実を写し出すように見えて、そこに写っているのは本物の現実ではないという、コクトーの映画論かもしれません。だから映画の中に突然トリック撮影が出てきても、まったく奇妙な感じがしない。音声はすべてアフレコ。画面の色調を見ながらコクトーが現実の色合いとの違いを説明するところも出てきます。あるいはアトリエを建設中の映像のあとに「ここでカットが変わると数カ月が経ちます。これが映画のマジックです」というコクトーの説明が入ったりする。トリック撮影より、僕はこうした構成の方がよほど面白かった。映画のナレーションをしているコクトーと、完成した映画を観ている観客が、まるで膝つき合わせて話しているような奇妙な感覚に襲われるのです。

 別荘の内部はあちこちの壁やドアや天井にコクトーの絵が描かれているらしく、それをいちいち紹介するこの映画はまるでコクトーの解説ついたコクトー作品集。上映時間38分という短編映画ですが、コクトー本人に別荘内部をくまなく案内してもらっているような、すごく贅沢な気分が味わえます。僕自身はコクトーの作品が特に好きでもなかったので、彼のスケッチやドローイングにもとりたてて関心を持ったことがなかった。しかしこの映画でここまで詳細に作品を見せられてしまうと、コクトーのデッサン力の確かさや描線の処理の仕方に、やはりずば抜けた才能のきらめきを感じずにはいられない。

 音楽にバッハやビバルディを使って、映画全編にコクトーのナレーションがべったり。こうしたスタイルはまるで下手くそな教養ドキュメンタリー映画のようですが、この映画には下手くそな映画には絶対に存在しないユーモアがふんだんに盛り込まれている。コクトーの解説を聞きながら、思わずニコニコしてしまう場面も多い。コクトーのギリシャ神話、特に「オルフェ」に対するこだわり(船の名前まで“オルフェ2世号”)はストレートすぎて微笑ましいほどだし、フィルムを逆転させてバラバラに引きちぎった花を復元するシーンは、まるでプラモデルの組立て。しかし完成品は美しい花だ。コクトーの指先から自然の美が創造されるようで面白い。

(原題:La Villa Santo Sospir)

2001年4月7日公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給・問い合わせ:ケイブルホーグ
ホームページ:http://www.cablehogue.co.jp


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