クレーヴの奥方

2001/03/06 メディアボックス試写室
フランスの古典的恋愛小説をオリヴェイラ監督が現代流に脚色。
ヒロインを演じるのはキアラ・マストロヤンニ。by K. Hattori


 17世紀の女流作家ラファイエット夫人の代表作「クレーヴの奥方」を、『アブラハム渓谷』『世界の始まりへの旅』のマノエル・ド・オリヴェイラが現代風に脚色し監督した作品。ラファイエット夫人は箴言集で名高いラ・ロシュフコーの同時代人で親友だったという人で、「クレーヴの奥方」の執筆にもラ・ロシュフコーの協力があったのだろうと言われているらしい。要するにそれぐらい古い時代からフランス人に親しまれている、古典的な恋愛小説がこの映画の原作なのです。

 原作は宮廷社会を舞台にしているのですが、それをこの映画では上流階級が集まる社交界に移し替えている。もっとも社交界も既に古くさいものだから、この物語がいささか古めかしいものになるのもやむを得ない。家柄も人柄も申し分ないクレーヴ伯と結婚したカトリーヌが、夫の自分に対する愛情を知りながらも別の男に惹かれていくという心理的葛藤がこの物語のテーマ。別の男というのがポルトガル人のロック歌手というあたりが、この映画の目新しい点と言えるのだろうか。ロック歌手を演じているのは実在の歌手ペドロ・アブルニョーザ。この映画には上流階級のサロンで演奏するクラシックのピアニストとして、やはりポルトガル人のマリア・ジョアン・ピルシュを出演させている。このふたりはそれぞれ実在のミュージシャンだが、クラシック畑のピルシュはクレーヴ伯が暮らす上流階級の暮らしを象徴し、アブルニョーザはカトリーヌが惹かれる「別の世界」を象徴している。なんとわかりやすい配役だろう。

 この映画の特徴は、物語の合間に黒地のタイトルを入れて、登場人物の心理状態やストーリーの要点をかいつまんで説明すること。こうした字幕を使った説明によって、物語の子細を長々と説明することを避け、全体をコンパクトにまとめることができる。この映画の場合はこの字幕を入れるタイミングが絶妙。場面転換の合間に入れることもあれば、大きな時間経過を表す場面で字幕を入れることもある。かと思えば、数ヶ月という時間の経過があっても、それが字幕なしに処理されていることもあったりする。この映画の場合、字幕には物語に緩急を付ける効果があるようだ。だらだらと事の次第を説明することをせずに、字幕でさっと物語のテンポを早める。かと思えば時間経過や事の顛末を台詞で人物に語らせ、物語が観客の中にじっくりと浸透していくのを待つ。ストーリーそのものに面白さを感じなかった僕も、この字幕の使い方は面白いと思った。もっともこんな手法は、誰にでもおいそれと真似できるものではない。

 主人公のカトリーヌ(クレーヴ夫人)を演じているのはキアラ・マストロヤンニ。カトリーヌ・ドヌーヴとマルチェロ・マストロヤンニの娘だ。感情を抑えた表情の乏しい役を、画面に出ずっぱりで演じるというのはかなり大変そう。もっとも、表情が乏しいのはこのクレーヴ伯もアブルニョーザもまったく同じ。アブルニョーザなんて、最後までサングラスはずさないしね。

(原題:La Lettre)

2001年今春公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:アルシネテラン
公式ホームページ:
http://www.alcine-terran.com/data/cleve/cleve.html



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