ハリー、見知らぬ友人

2001/02/14 東宝第1試写室
ドイツ人の監督がフランスで作ったヒッチコック風サスペンス。
20年ぶりに再会したクラスメイトの話。by K. Hattori


 ヨーロッパの夏はバカンスの季節。フランス語教師のミシェルは、エアコンもないボロ車に妻と3人の娘を乗せ、休暇を過ごす山奥の別荘に向かっていた。すし詰めの車の中は蒸し風呂状態。子供はヒステリーを起こし、赤ん坊は泣きわめき、妻はイライラし、ストレスでミシェル自身の神経もすり切れそうになる。だがサービスエリアでわずかな休憩を取っていると、そこに現れたのは高校時代の同級生ハリーだった。彼はミシェルのことをよく覚えているが、あいにくミシェルは彼のことをまったく覚えていない。父親の遺産で裕福な暮らしをしているハリーは、恋人とふたりでスイスに行く途中だというが、久しぶりに会ったミシェルを懐かしんで別荘まで同行することになる。金持ちにありがちな横柄で尊大な様子は微塵も見せず、気さくで人なつこいハリー。やがて彼は、ミシェルのためにあれこれ世話を焼き始める。

 ハリーを演じているのは『ニノの空』『ポルノグラフィックな関係』のセルジ・ロペス。ミシェル役は『ポーラX』のローラン・リュカ。監督・脚本のドミニク・モルはこの映画が監督第2作目だというが、なかなかの手練れと見た。モル監督はヒッチコックが大好きとのことだが、この映画は観始めてすぐに『見知らぬ乗客』との類似性を感じさせる。そもそもタイトルが似ているけれど、設定がひどく似通っているのだ。『見知らぬ乗客』では離婚問題でトラブルを抱えている有名テニス選手が、電車の中で偶然ファンを名乗る見知らぬ男に声をかけられる。『ハリー、見知らぬ友人』ではそれが平凡なフランス語教師と資産家の男に変わっているが、声をかけてきた男は主人公のことを非常に細かく知っており、声をかけられた方は相手のことを何も知らないという関係性はそのまま踏襲されている。『見知らぬ乗客』のブルーノは、主人公ガイの私生活上のトラブルをある方法できれいに解決しようと提案する。『ハリー、見知らぬ友人』のハリーは、ミシェルの私生活上の悩み事を自分の助けできれいさっぱり取り除いてやろうと考える。

 僕はこの映画のハリーを、『見知らぬ乗客』のブルーノと同じキャラクターだと理解した。ブルーノの父親は父親の莫大な遺産を相続するため四苦八苦していたが、ハリーはまんまと遺産相続に成功したわけだ。ブルーノはガイに、自分の好意の代償として相手も自分に同じことをしてくれるように求める。だがすべてを手に入れているハリーは、そんなけちくさいことはしない。彼は徹底して善意の人だ。自分が身の回りのトラブルを解決したように、友人のトラブルも解決してやることが自分の義務だという強迫観念にとらわれている。

 ヒッチコックの映画が好きな人なら、この映画は気に入るはず。アメリカのヒッチコック後継者たちがもっぱらその撮影スタイルの模倣に走るのに対し、この映画はヒッチコックが描こうとしたエンターテインメントとしてのスリラーの精神に忠実だ。結末はフランス映画らしい皮肉に満ちたハッピーエンドになっている。

(原題:HARRY, UN AMI QUI VOUS VEUT DU BIEN)

2001年陽春公開予定 シャンテシネ
配給:セテラ


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