マネー・ゲーム

2001/02/13 TCC試写室
やっと証券会社に就職したと思ったらその正体は……。
ジョバンニ・リビージ主演の金融犯罪ドラマ。by K. Hattori


 『プライベート・ライアン』『カーラの結婚宣言』『60セカンズ』などの映画で確かな演技力を見せた、ジョバンニ・リビージ主演の経済犯罪ドラマ。大学を中退して違法カジノを経営していたセスは、判事をしている父にとがめられたことがきっかけとなって、郊外にある小さな証券会社に就職する。20歳代の若いディーラーがひしめき合い、巧みな電話トークで推奨株を売りまくる活気のある職場。業績は上々で、同僚は皆高給取りだ。セスも持ち前の頭の良さと度胸と弁舌で、めきめき頭角を現していく。だが不自然に高い手数料に疑問を感じたセスは、やがて会社の違法性に気が付く。

 主演のジョバンニ・リビージという俳優に観客の好き嫌いがありそうだが、映画としてはよくできている作品だと思う。監督・脚本はこれがデビュー作(?)のベン・ヤンガー。違法であることを承知で行うカジノ業と、違法性があることを知らずに足を踏み入れた証券業界の対比が物語の中で生きている。違法カジノで学生相手に小銭を巻き上げるのと、不良証券を売りつけて資産家から大金を奪うのとどちらが悪質なのか。企業ぐるみの犯罪で、末端の社員はどこまで責任を負うべきなのか。この映画は証券業界を舞台にしているが、その内実はペーパー商法による詐欺犯罪のようなものだ。

 この映画は単に企業犯罪の実態を暴くだけではなく、その周辺にあるさまざまな人間を描くことで、ドラマとして見応えのあるものを作っている。ウォール街にある一流証券会社へのコンプレックス。職場におけるイタリア系とユダヤ系の人種的な対立。主人公と父親の確執。職場での恋愛関係。台詞の中に時々ドキリとするようなものがあって、ついつい物語に引き込まれてしまうのだ。証券ディーラーとして高給を得ながら、片っ端から金を浪費してしまうので大衆車を買うローンも組めないというエピソードなど、妙に生々しいものに感じられる。

 映画の中ではオリバー・ストーンの映画『ウォール街』が若い証券ディーラーたちのバイブルになっていて、あらゆる場面のあらゆる台詞を彼らがそらんじているというシーンがあった。彼らのロールモデルは、映画の中でマイケル・ダグラスが演じる花形証券マン。そしてセールストークのノウハウは、映画『摩天楼を夢見て』から学んでいるらしい。じつはこの映画そのものが『摩天楼を夢見て』をかなり意識しているのではなかろうか。時々現れては長い弁舌を振るうベン・アフレックは、『摩天楼を夢見て』のアレック・ボールドウィンと同じ役回りだろう。少し貫禄不足ではあるけれど……。

 人間ドラマの中心になっているのは、主人公と父親の確執と和解。父親の期待に応えよう、父親に愛されようと必死になる息子と、そんな息子の行動を理解できない父。『エデンの東』などとも共通する普遍的な父子関係の悲劇が、この映画を一本筋の通ったものにしている。

 原題の『BOILER ROOM』とは、電話で売り込む不法証券ブローカーの営業所を指す俗語だと辞書にある。

(原題:BOILER ROOM)

2001年4月24日公開予定 シネ・リーブル池袋
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Kシネマ


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